Research Abstract |
本研究の目的は,大都市圏の成熟化が地域の経済活動や社会活動に与える影響を地域交通のあり方と関連づけながら明らかにする点にある。そのため本年度は,成熟化の原因とそれが地域の中でどのように現れているかを把握することから研究を始めた。成熟化をとらえる指標は種々あり,人口,産業,所得,消費など多くの分野にわたる。産業では大都市圏の事業所立地動向,生産額推移,就業構造推移など,消費の側面では消費者行動の特徴,消費者の意識変化などであり,これらが変化していく側面を通して成熟化の一断面を明らかにした。 こうした成熟社会において地域交通はどうあるべきか,とりわけ都市型の中量交通システムがいかなる役割を果たすか,その意義の検討がつぎに求められる課題である。高度経済成長期に都市拡大を牽引したのは,私鉄や国鉄などの鉄道,そしてモータリゼーションである。大都市圏の場合は鉄道網の建設と整備がとくに重要であり,大量交通機関が通勤,通学,購買の利用客を郊外から都心部へと輸送した。基本的構造は成熟社会でも変わらないが,大量輸送型の公共交通手段を欠く空白地域は依然として存在する。こうした地域ではバス交通か,それもなければ私的な自動車交通に依存するしかない。こうした状態をいつまでも放置することはできず,おそまきながら公共交通手段を導入しようという動きがある。これが中量交通システムの事業家に結びついている。その一方で,環境問題や少子高齢化との関係から,自動車交通を見直してフレキシブルな公共交通システムを導入しようという動きもある。本年度は,中量交通システムの事業化が模索されるようになった時代背景と社会経済の段階的発展を意識しながら,現在,大都市圏で行われている試みに注目して検討を行った。名古屋大都市圏ではこうした動きが活発であり,ガイドウエーバス,浮上式リニアモーターカーなど中量交通システムの事業化の背景について考察した。 名古屋大都市圏ですでに実現したガイドウエーバス,まもなく実現しようとしている磁気浮上式リニアモーターカーの事業化がいかなる条件化で実現したか,あるいはしようとしているかにとくに注目した。地理学は対象に縛られないという点で特異な学問であり,経済,社会,政治,環境など多方面と関係をもつ交通現象を総合的に明らかにするには,もっとも適切な学問であり,またアプローチであることを,本年度の研究を通して再確認した。
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