2004 Fiscal Year Annual Research Report
ナチス優生法制の歴史的位相と戦後ドイツにおける生殖関連立法への影響
Project/Area Number |
16530012
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
三成 美保 摂南大学, 法学部, 教授 (60202347)
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Keywords | 優生学 / ナチス / 生殖 / ジェンダー / ドイツ / 断種法 / 自己決定 / セクシュアリティ |
Research Abstract |
本年度はナチス期優生法制の実態を明らかにすることを中心課題として研究し、2点の成果をあげた。 (1)2004年9月、法制史学会近畿部会において研究報告(「ナチスドイツの優生思想と生殖管理法制」)を行った。ナチスドイツは、積極的優生思想と消極的優生思想の双方を追求したが、技術水準の低さから前者については初歩的なレベルにとどまり、結果的に後者の非人道的な性格が歴史のなかに汚点として残されることになる。「優生学=国家主義=人種差別」というナチス的図式は、1970年ころバイオエシックス第2期への移行期に成立した。しかし、ドイツ人種衛生学を当時の国際情勢のなかに位置づけるとき、優生学は社会国家建設や豊かさを求める個人的な家族計画という形で支持されていたのであり、露骨な人種差別と直接結びつくものとはいえない。優生思想を根底からささえたのは、近代国家がもたらした「健康」至上主義にほかならない。「生殖管理国家」としてのナチスは、「不健康者」の出生抑制を計画し、実践の過程で「不健康」概念を次第に拡大していく。「知性→政治的信条→人種」という拡大である。断種法による被施術者およそ40万は男女半々であるが、身体的・精神的負担は著しく女性に偏った。手続きの慎重さは、「健康」な子孫を女性の個人的思想により不用意に失わないためのものであり、ナチスの優生法制は、女性の自己決定権をまったく否定するものにほかならなかった。あくまで女性身体は「生殖機械」とみなされ、その管理権は究極的には国家に掌握されたのである。 (2)研究成果として、三成美保『ジェンダーの法史学-近代ドイツの家族とセクシュアリティ』(勁草書房)を出版した。とくに第9章と第10章でナチスを論じ、ナチスによる生殖管理のジェンダー・バイアスを論じた。 2005年度は、本年度の成果をふまえて、戦後ドイツの優生法制を検討する予定である。
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Research Products
(1 results)