2004 Fiscal Year Annual Research Report
「個人の尊重」を解釈基準とすることによる、社会権諸条項の変革
Project/Area Number |
16530021
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
押久保 倫夫 兵庫教育大学, 学校教育学部, 助教授 (30279096)
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Keywords | 「個人の尊重」 / 社会権 / 生存権 / 生活保護 / 人間像 |
Research Abstract |
本年度は、日本国憲法の規定する社会権のうち、25条の「生存権」について、人権の中核となる思想を表す憲法13条の「個人の尊重」を解釈基準として捉えなおす研究を行った。 「個人の尊重」やその自律、あるいはそれと密接な関係を有するドイツ連邦共和国基本法1条の「人間の尊厳」について、その理解を深める為に、これらに関する日本およびドイツの文献を研究し、その理解の進化を図った。その成果の一部が、これらと間接的に関係する論文である「『故人の尊厳』保護」及び「人間像の転換?」である。 そして、「生存権」の保障の最も典型的な具体化である「生活保護」について、その法制度と解釈・運用の実態について研究を行った。そしてその問題点を克服するには、正に憲法25条の「生存権」を13条の「個人の尊重」を解釈基準として捉えなおす必要があると確信し、それを表したのが論文「生活保護と『個人の尊重』-受給者の自由とその『人間像』の問題-」である。 そこでは具体的には、生活保護受給者の自由の制限と、野宿者の生活保護からの排除の問題を取りあげた。これにはとりわけ、これまでも私が憲法13条に基づいて批判してきた、一定の「人間像」とそれによる自由の制限の問題が典型的に現れているからである。即ち生活保護受給者は、一般の人には極めてありふれた行為でさえ制約されることがあるが、それは憲法25条の「最低限度の生活」からイメージされる人間像に基づいていることを明らかにした。そして野宿者の生活保護からの不当な排除も、保護機関の想定する被保護者に対する人間像に起因し、それが生活保護を受けるに至る生活困窮者の生き方を実質的に規制していることを示した。 そして、このような問題を克服する為に、生存権、ひいては社会権が「自由の実質化」を目的とするものであるという原点に立ち戻り、憲法25条の背後には13条の「個人の尊重」が存在するという憲法規範の重層構造を明らかにした。そしてこの構造からすれば、生活保護受給者、さらに一般的に社会保障を受けている人も、その保障の下で個性ある生活を送ることを憲法は要請しており、上記のような規制や排除は許されないことを論じた。 この論文により、社会権のうち生存権については、その背後にある「個人の尊重」の存在を明確化することによって、その解釈の変革の方向性は示せたと思う。
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Research Products
(3 results)