Research Abstract |
本研究は,昭和30年代における借地借家法改正作業の検討を行った。昭和16年借地法・借家法改正(正当事由制度導入)により借地権・借家権保護がなされたが,昭和30年代にいたると借地法・借家法は,新たな問題に直面した。それは,借地法を近代都市建設に対応させること(借地権抵当による建物建設資金の融通,都市不燃化に対応した非堅固建物の堅固建物への建替え),借家法を戦後社会の多様性に対応させること(企業による社宅建設の隆盛,内縁配偶者保護の必要性の増大,老朽家屋の建替えをめぐる正当事由紛争の増加,賃料紛争の増加),借地借家紛争処理では迅速妥当な処理をなしうる制度を設けること(不動産高騰の影響を受け借地借家紛争は,当時の地裁事件の2割以上を占めた)であった。 法務省は,我妻栄特別顧問を中心に昭和31年5月から借地借家法改正作業を進め,昭和34(1959)年末に「借地借家法改正案要綱試案」を発表した。しかし,そこでの借地権物権化には相当の抵抗があり,結局昭和37(1962)年からは緊急改正が必要な事項に絞って検討を進め,昭和41年の借地法等改正に結実した。本研究は,当時の多数の借地借家法草案,関連文書,協議会記録及び当時の反響を検討し,そこでの借地権物権化のねらいは,借地権物権化による借地権抵当の実現それによる都市不燃化にあったことを明らかにした。また,借地・借家紛争対策として,大胆な非訟制度の導入が計画された。借地権物権化は,地主層・保守党の抵抗により実現しなかったが,昭和41年改正において借地非訟制度が設けられ,都市不燃化への対応が可能になったことを明らかにした。
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