Research Abstract |
前年度に引き続き,ヨーロッパ法における人権保障の重層的構造理解を念頭におきつつ,特に財産権保障と移民問題を中心に考察を行った。 1.ヨーロッパ法における財産権保障の研究 この分野については,EC法と欧州人権条約について資料の収集・分析を継続して行い,特に欧州人権条約における財産権保障の構造については,ある程度ふみこんだ検討ができた。具体的には,同条約で財産権を保障した第一議定書1条の成立が,締約国間の妥協の産物としての性格を有しつつも,ファシズムの経験に根ざしたものであったこと,同条についての欧州人権裁判所の解釈は,締約国の裁量を広く認めつつも,条約違反を認めた事例がいくつかあるが,その際の解釈枠組に理論上問題点があること,また,そうした考え方に近時変化がみられることなどが明らかになった。こうした成果の一部は,現在,所属大学の紀要に掲載中である。 2.ヨーロッパ法における移民問題 移民および難民に関する規制については,とりわけアムステルダム条約以降,EUの権限がますます増大してきている。そうした動きに留意しつつ,EU諸国の国内法による移民法制の展開も追った。この点,特に,ドイツにおける外国人法制の転機ともいえる,2004年の移民法制定と,それをめぐる議論に注目した。そこには,「外国人法から移民法へ」と言われるように,いかにして有為な外国人を受入れるかといった,従来とは異なる発想がみてとれる。こうした法規定の詳細な定めと問題点を分析した。併せて,他の諸国の動向も概観した。 3.以上の作業と並行して,人権というものに対する,EUの理解・アプローチの仕方に関する理論的研究も手がけた。
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