2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16530124
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
瀬古 美喜 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60120490)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒田 達朗 名古屋大学, 大学院・環境学研究科, 教授 (00183319)
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Keywords | 転居率 / パネルデータ / ハザード分析 / 負の資産 / 借地借家法 / 個票 / 国際比較 / 住宅税制 |
Research Abstract |
日本の住宅市場は、国際的に見て転居率が低いことが知られている。この転居率の低さの原因として、さまざまな転居阻害要因が存在するため、家計は、動学的な最適化行動に基づいて自由に転居を行なうことができないと考えられる。さらに、転居率の低さは、転居に伴う取引費用が大きいために、家計が住宅市場における価格変化に対して、迅速に反応できないという事を意味するので、住宅市場における価格変動の幅を大きくすることになる。そのため、わが国の転居阻害要因をあきらかにし、それを減じるような政策を示唆することは、住宅市場の質を高めることにつながるものと考えられる。そこで、持ち家からの転居を阻害していると考えられる負の資産(negative equity)の問題と、借家からの転居を阻害していると考えられる借地借家法の問題に焦点をあてて、KHPSの第1回と第2回のデータを用いて、Coxのハザードモデルにより、それらの阻害要因を分析した。分析結果より、持ち家からの転居では、住宅購入額と比べて借り入れ残額が多い家計ほど、転居が阻害されていることが示された。また、借家からの転居では、現行の借地借家法によって、転居が阻害されていることも確認された。今後は、創設されてまもないが、定期借家制度などを一層充実していく必要があろう。さらに、借家から持ち家への転居のケースで、高齢で中古であるほど転居しないという現象が見られるということは、高齢者が、築年数の経過した質の悪い住宅から転居することが困難である事を意味していると考えられるので、今後は、日本の高齢化が一層加速化することを踏まえて、特に中古持ち家住宅市場の流動化を高める方策を考慮する必要があると思われる。 また、日本、中国、スウェーデンの住宅市場の特徴と問題点を、アメリカとの比較も交えて、概観し、それに基づいて、住宅需要の計量経済学的な分析を行なう場合に、どのような各国独自の制度的要因などを、実証分析を行なう場合に、組み込む必要があるかという国際比較分析を行なった。特に、住宅税制、法制、金融制度、家族関係などは、国によって非常に状況が異なるため、これらの点を、明示的に取れ入れて、住宅需要関数の推計、居住形態の決定要因の分析などを行なう必要があるということを、日本、中国、スウェーデンの代表的な住宅需要に関する個票を用いた分析を挙げて、主張した。
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