2006 Fiscal Year Annual Research Report
為替レート政策のマクロ経済効果に関する比較実証研究
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16530176
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
宮尾 龍蔵 神戸大学, 経済経営研究所, 教授 (40229802)
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Keywords | 為替レート / マクロ経済政策 / 時系列分析 |
Research Abstract |
本研究は、わが国の為替レート政策のマクロ経済効果について、包括的な比較実証分析を行うことを日的とする。本年度は、昨年度に実施した予備的な検証をベースに推計モデルや推計期間に関する拡張を実施し、包括的な実証分析を行った。ここで用いる基本モデルは、多変数システムに基づくベクトル自己回帰モデルであり、変数としては、GDPギャップ、為替レート(円ドルレート)、金利(実質コールレート)、株価(日経平均株価の実質値)を使用する。GDPギャップ変数の推計には、日本の90年代以降の持続的な需要不足を捉えるため、コブ・ダグラス型生産関数に基づく推計値を採用した。推計期間は1983年から2004年である、標準的なリカーシブ制約に基づいて上記の4変数システムを推計し、構造ショックのインパルス反応を求めた。その結果、為替レートショック(円安ショック)は、GDPギャップに短期的にわずかなプラスの効果をのみで、中長期的にはGDPギャップに対してマイナスの効果(負のGDPギャップの拡大)をもたらすことが示された。 この基本モデルの結果の頑健性について、まず異なる推計期間(83年から95年、93年から2004年)を用いて調べた。90年代半ばには超低金利政策や不良債権問題の顕在化などに起因する構造変化の可能性が他の研究でも示唆されているからである。このサンプルを分けた推計結果からも、上記と同様の結果が示唆された。また実体経済を表すGDPギャップ変数について、Hodrick and Prescottフィルターを用いたGDPギャップ系列を使用した追加検証も行った。また実質GDP成長率なども用いたが、全期間、推計期間を分けたインパルス反応とも結果は影響を受けなかった。 以上の包括的検証から、近年の日本において円安による支出スイッチ効果は、全体として非常に限定的であり、むしろ長期的なコストプッシュ要因がもたらすマイナス効果が上回っていることが非常に頑健な形で確認された。これは不況脱出の処方箋として提唱されてきた「円安誘導」論の実効性は、現実の日本経済にとって非常に限定的であることを示唆しており、重要な政策含意といえる。
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