2004 Fiscal Year Annual Research Report
工業化期ドイツにおける環境問題と住民運動に関する研究:ルール地方の事例
Project/Area Number |
16530229
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田北 廣道 九州大学, 大学院・経済学研究院, 教授 (50117149)
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Keywords | 環境史 / 工業化 / 環境汚染 / 環境政策 / 住民運動 / ルール地方 |
Research Abstract |
初年度の作業は、内外の基本文献・資料の収集と一部分析を中心にして、研究動向のフォローと実証研究との双方につき進めた。そこから得られた新たな知見は次の通りである。 (1)研究史 (1)ドイツ学界において環境史が歴史科学の主流の地位を占めるまで確立している。このことは、最近の成果の集大成であるSiemann, W.(ed.), Umweltgeschichte,2003において環境は、経済、支配、文化と並ぶ鍵概念の一つに据えられている事実からも容易に見て取れる。 (2)それと並んで注目を引くのが、環境政策論の利害関係者の位相に注目した分析手法の採用である。産業は環境問題発生の元凶であるとの偏見に囚われずに、「市民・政治・官僚・産業」の4者の関係を時代状況のなかに的確に位置づけながら追求する必要が叫ばれており、現代環境政策論との対話から筆者が導出した方法と通底するところがある。 (2)実証研究 (1)工業化期のルール地方についてはKollmann, W.(ed.), Das Ruhrgebiet im Industriezeitalter, 2Bde.,1990の上梓と相前後して環境史研究が活性化し、記述史料・文書資料・各種統計資料など豊富なデータを基礎に成果の集約を図ることが可能となっている。 (2)19世紀前半(初期工業化期)との質的な違いを浮き彫りにするために、2つの分野に関して史料収集を進めた。 1.一つは、工業化・都市化に伴う新たな環境問題と住民闘争、それに対する行政・司法の対応(事前認可制・営業査察官も含めて)の変化を考察する作業として、デュッセルドルフ州立文書館に所蔵された豊富な史料を収集した。 2.もう一方は、環境負荷の広域的な高まりの中で形成される初期環境団体の役割を、水と大気という環境媒体の代表例を取り上げて考察すべく「エムシャー河組合」と「煤煙被害克服のための協会」の活動記録を収集した。その分析に際し(1)-(2)の手法を採用することで、企業の強い影響力に着目してそれらの意義を低く評価してきた支配的学説の再検討を試みる。
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