2005 Fiscal Year Annual Research Report
工業化期ドイツにおける環境問題と住民運動に関する研究:ルール地方の事例
Project/Area Number |
16530229
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Research Institution | KYUSHU UNIVERSITY |
Principal Investigator |
田北 廣道 九州大学, 大学院・経済学研究院, 教授 (50117149)
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Keywords | 環境史 / 工業化 / 環境汚染 / 環境政策 / 住民運動 / ルール地方 |
Research Abstract |
2年間の研究成果は、学説史の考察と史料調査に基づく実証研究とに整理できる。 (1)学説史的検討は、現代環境政策論との対話から導出した環境史研究の方法論(政策主体の配置に注目)の有効性と関連づけながら進め、次の2点を確認した。 (1)Siemann,W.(ed.),Umweltgeschichte.2003,Bruggemeier,F., Umweltgeschichte und Geschichte der Umwelt-bewegungen. In AfS,43,2003.は、経済利害の対立を軸にした工業化の解釈から離れ、「政府・企業・市民」の力関係の変化を追跡する姿勢を示して、報告者の方法の正しさを裏付けている。 (2)環境史の学的独自性が一段と高まった:環境は経済・支配・文化と並ぶ鍵概念の一角を占めるに至っており、「成長・進歩」に変わるキーワードに「持続可能性」を想定する動きも登場した。 (2)実証研究は、19世紀後半以降ルール工業地域の急成長のなか、生活権全般を包括する「隣人権」に基礎づけられた強力な住民の抵抗権が制限されていく過程を2つの次元から解明してきた。 (1)19世紀プロイセン工業化と並行した環境立法の整備の帰結を営業監督官制度の確立と併せて追究し、これまでの仮説をおおよそ確認した。 1.営業設立に先行する事前協議権と営業停止請求権を内容とする「隣人権」は、45年の政府による事前認可制度の導入を境に影響力を弱めてくる。 2.とくに、住民に留保された計画公示時の異議申し立てが、公示免除の認可申請の普及や在地当局による調停作業の限界が露呈するなかで意義を失い、次第に事後的な損害賠償請求権(私法)に制限される過程を明らかにした。 (2)そのような環境行政・運動の質的転換を牽引する役割を担った化学工業の史的展開過程の追跡である。19世紀第四四半期デュッセルドルフ行政区を代表する環境闘争と表現される企業家C.イエガーの染料工場をめぐる闘争を軸に、相前後する化学工業(認可申請の70%が抵抗を呼ぶ)闘争の比較から、(1)と並行した社会経済・法制変化を「大工業の序曲」(Bayerl)の一齣と捉える見解を打ち出した。
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