2004 Fiscal Year Annual Research Report
裁判集会文書に見るカロリング期イタリア北部の森をめぐる経済的諸関係
Project/Area Number |
16530230
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
城戸 照子 国立大学法人大分大学, 経済学部, 助教授 (10212169)
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Keywords | placitum / silva staralia / silva et paludes / ノナントラ修道院 / サンタ・ジュリア・ディ・ブレシア修道院 / 裁判集会 |
Research Abstract |
8-9世紀イタリア北部の森林に関して、平成16年度の作業から以下4点のことが明らかになった。 1 裁判集会文書で明らかになった、「王の森」の修道院への譲与にともなう農民と修道院の係争事例から、イタリア北部ポー河流域ではヨーロッパの中では相対的に早く、カロリング王権による包括的で観念的な土地所有権が、修道院の土地経営に基づく一円的で具体的な所有権に取って代わられていくことが分かる。共同体による森の用益権維持は農民経営にとって死活問題であり、その権利をめぐる係争は紀元1000年以降、領主と農民の対立の主要な争点の1つとなる。 2 実際の森林の植生については、所領明細帳や農地契約に見られるオーク類(ドングリが豚の飼養のために重要)の森林の他に、高河川敷でのヤナギ類、海岸部のマツ類などが燃料の他、手工業の材料やブドウの支柱などに利用されるものとして注目されるべきことが確認された。 3 農地契約等の検討から、森林には、農民が共同で用益権を持つ森の他に、個々人がそこで木を伐採する権利が明記される森があることが注目される。燃料等の切り出しに利用し萌芽更新されるsilva staraliaと呼ばれる森がそれで、その伐採の権利は森の所有者が持っている。 4 史料収集と研究動向追跡の作業から、ヨーロッパ学界全体で、森林利用の比較検討に基づく景観と空間に関する研究が進展していることを確認した。化石花粉学の研究成果などによる長期の植生の変化の検討から、所領明細帳などの所領経営の記録が裏付けられ、ポー河流域では自然の植生以上に人為的な移植によって栗の木が分布している点などが、確認された。
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