2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16530393
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Research Institution | Aichi Konan College |
Principal Investigator |
輪倉 一広 愛知江南短期大学, 社会福祉学科, 助教授 (10342122)
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Keywords | 岩下壮一 / 天皇制 / 権威性 / 民衆性 / 皇恩 / 救癩 / 国民的・民族的アイデンティティ |
Research Abstract |
1.平成16年度においては、とくに岩下壮一の晩年の活動拠点であり、また救癩実践のフィールドであった神山復生病院に保存されている一次史料を調査・整理することに充てる計画であった。しかし、財団法人神山復生病院との話し合いの結果、個人情報保護の観点等から調査・整理作業は基本的に法人で行うこととなり、作業への直接的なかかわりは必要なくなった。そのため、整理された若干の史料の閲覧等が中心となった。 2.故小林珍雄が収集した岩下資料については、必要な都度閲覧利用を行った。 3.神山復生病院に在院中の岩下関係者からの聞き取りについては、追加分・新規分ともにほぼ初期の予定を終了した。しかし、対象者が高齢なこともあり高い史料価値をもつと思われる新しい内容はほとんど得られなかった。 4.16年度における研究成果の発表として、論文「岩下壮一における権威性と民衆性」(投稿中)を執筆した。これは、岩下壮一の思想を同時代の思潮と対比させて、その固有な位相や立場さらに思想構造を明らかにするための分析検討を行ったものである。その際、具体的な実践としての救癩事業の検証から実証的に問い直すことにより、思想家と実践家という2つの側面をもつ岩下の実像へと接近を試みた。 結果、岩下は思潮としての唯物史観や皇国史観を、権威が捨象されているかあるいは権威性が未熟であるとして批判した。その上で、救癩に代表される皇恩が権威の下部構造に投射される民衆性に支持されている点を踏まえて、癩患者がその民衆性を完全に否定されてきたことをかんがみ、お召し列車の奉送機会の設定という具体的な活動に代表される救癩実践を通して、患者たちに国民的・民族的アイデンティティに基づいた民衆性を主体化させようとした。それは、国民統合に求められる要件でありながら当時の思潮には欠けているものであった。
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