2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16530393
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Research Institution | Aichi Konan College |
Principal Investigator |
輪倉 一広 愛知江南短期大学, 社会福祉学科, 助教授 (10342122)
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Keywords | 岩下壮一 / 天皇制 / 権威性 / 民衆性 / 救癩 / 皇恩 / 唯物史観 / アイデンティティ |
Research Abstract |
岩下の救癩思想をファシズム化の時代社会状況の中にすえて考察した「岩下壮一における権威性と民衆性」を著した。これは、岩下壮一の時代思潮への応答を分析するとともに、救癩実践家としての岩下の福祉思想を具体的な事業実践から実証的に問い直すことにより、岩下の思想の立場および構造を明らかにしたものである。その際、時代の要請としての国民統合に求められる2つの要件である「権威性」と「民衆性」という対立指標を軸にして解き明かそうとした。 具体的には、時代思潮としての唯物史観と皇国史観、さらに皇国史観と関連し救癩に代表される皇恩の思想とも対比させて、それらへの岩下の思想の応答を明らかにした。結果、唯物史観に対しては、それが権力構造の相対的な体系的把握に寄与しつつも、実在論的な観点からとらえられる権威の側面を捨象する思想であるとして退けた。また、皇国史観とりわけ皇恩については、岩下にとって救癩は国民道徳の問題であり、岩下の認識においてイニシアティブ(国民発案)様のあるいは公準としての皇恩報謝を意味した。それゆえ、従来、権威の下部構造に投射される民衆性の側面を否定されてきた癩患者に対して、その回復こそが彼の中心的な救癩思想となった。 さらに、こうした岩下の思想を、お召し列車の奉送機会の設定という具体的な救癩実践に照らして検証してみると、そこには概念としてのカトリシズムにおいては容易に見出しにくい、国民的・民族的アイデンティティに基づいた民衆性を主体化させるという実践思想が存在し、強固に機能していたことが明らかとなる。 なお、本年度予定した神山復生病院での新たな史料調査は、病院側の事情によりほとんど行うことができなかった。一方、東京大司教館所蔵の史料のうち、とくに岩下の日記について、その伝来等について調査進行中である。
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Research Products
(1 results)