2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16530393
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Research Institution | Aichi Konan College |
Principal Investigator |
輪倉 一広 愛知江南短期大学, 社会福祉学科, 准教授 (10342122)
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Keywords | 岩下壮一 / カトリック / 救癩 / 福祉思想 / 間主観 / 権威 / 癩 / ハンセン病 |
Research Abstract |
1.思想家・実践家としての岩下 岩下は、歴史哲学における<一貫性>と<総合性>の両問題を、同時代的文脈の中でどのように理解すべきかについて、カトリシズムを支持する立場からその解明に向けて取り組もうとした。日本のカトリック教会が、ナショナリズムとしての全体主義を乗り切るために皇国思想と短絡的に同調しようとした中で、岩下はそうした態度とは一線を画し、<一貫性>と<総合性>の両問題を「通時」と「共時」でつくられる生活世界の中心的な問題ととらえ、その成立条件として<権威性>と<民衆性>の両方が国民国家の統合原理として必要であると理解した。その際、岩下がこだわったのは<実在>ということであった。それゆえ、社会で最も忌まれていた癩者の小社会に自ら身を置き、そうした外縁社会の原理としても十分に堪えうる歴史哲学の構築を模索したのである。しかしその過程で、実践家としての岩下自身の内的矛盾が、カトリシズムの限界を露呈させることになったのである。 2.天皇制国民国家における救癩関係 患者と国民国家との関係構造は、従来の救癩史研究のような外在的にとらえる理解では十分に実相を把握できなかった。それは、権力関係として差別論的なバイアスがかかることで、主体と対象との内在的な関係の視点が捨象されていたからである。その点、本研究で主に用いた間主観的な関係構造の分析は、主体ないしは客体の身体が主体的かつ客体的な両義態であるととらえるところに特徴があり、それゆえ内在的な関係性をも析出し得たといえる。 結果、天皇制国民国家における癩患者のアイデンティティ志向は、自然な意識的通路を介して国民国家へと収束していたことが明らかとなった。つまり、患者は国民国家の救癩政策によって強制的に周縁へと駆逐されたにもかかわらず、なおも引き続き、彼らが許された「療養所」という小社会の域を超えて国民国家に帰属することを望んだのである。
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