Research Abstract |
脳損傷後に生じる失語症では,聞く,話すなどの言語機能が障害され,スムーズなコミュニケーションが困難になる。その結果,コミュニケーション機会が制限される,抑鬱的症状が出てくるなど,心理社会的側面の弊害も生じる。近年では,心理社会的問題の解決方法の1つとして,地域住民を失語症会話パートナーとして養成し,失語症者のコミュニケーション促進の橋渡しを果たしてもらうという取り組みが行われている。しかし,パートナーのコミュニケーション評価法は未確立であるため,本研究ではパートナーのコミュニケーション評価法の開発を目的とした。 今年度は,重度失語症者とパートナー間でのコミュニケーション実態を調べるために,非言語的手段使用に注目して,質的検討を行った。その結果,パートナーの非言語的手段使用時には,音声の併用が多く観察された。しかし非言語的手段使用場面は,数に関する話題(数を指で表す)や,近くにあるものを指さしながら行う話題の時が多かった。このことから,パートナーの非言語的手段使用は,話題に影響されやすいと考えられた。 またKaganら(2001)の失語症者およびパートナー評価法を使用して,失語症者とヘルパーなど保健福祉に関わる人との1対1の会話場面を分析した。評定者は言語聴覚士3名とし,評定前には,別な会話素材を使用した評定練習を行った。その結果,評定一致率が,比較的高い項目と,ばらつきがみられる項目があり,パートナーのコミュニケーション方法を経時的に評価するためには,同一評定者の観察が大切であると示唆された。 以上より評価法作成にあたっては,評定者が評定しやすいように留意すること,どの話題時にも使えるように工夫することが必要であると考えられた。今後わが国の実態にあわせた評価法をパイロットスタディとして作成し,使用しやすさや信頼性・妥当性について,検討の積み重ねが必要であると思われた。
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