2005 Fiscal Year Annual Research Report
ラットを用いた記憶モデルによる視覚情報と聴覚情報の脳内記憶機構に関する研究
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16530463
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
筒井 雄二 福島大学, 共生システム理工学類, 助教授 (70286243)
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Keywords | 記憶のモダリティ効果 / コリン作動性神経 / 視覚記憶 / 聴覚記憶 / 瞬時遅延見本会わせ / 前脳基底部 / ラット |
Research Abstract |
ラットにおける短期記憶は,視覚情報の保持(視覚記憶)に比べて聴覚情報の保持(聴覚記憶)が優れている(筒井,1998).このような記憶のモダリティ効果につき,我々は視覚記憶と聴覚記憶の間に脳内情報伝達機構の差異が存在する可能性を考え,記憶と密接に関わる脳内コリン系とモダリティ効果の発現との関係を調べている.脳内コリン系には主要な2つの経路があり,1つが内側中隔から海馬へ投射する経路,もう一つが前脳基底部から皮質へ投射する経路である.先の研究(筒井,2003)では,内側中隔を破壊したラットで視覚情報の保持が障害されたが,聴覚情報の保持には影響が現れなかった.本研究では前脳基底部を破壊し,モダリティ効果への影響を調べた(前脳基底部破壊は1998年度科研費(奨励研究A)でも試みた.その際,前脳基底部の両側性破壊が動物の健康状態を著しく阻害したため,十分なデータを収集できなかった.今回は前脳基底部を片側性に破壊した). 実験の結果,前脳基底部の破壊は視覚情報と聴覚情報のいずれにも障害を与えることがわかった.ただし,視覚記憶と聴覚記憶に対するダメージの大きさには違いがあった. まず,聴覚情報の保持について,前脳基底部破壊により遅延時間依存的にその能力が低下した.先の実験(筒井,1998)で内側中隔破壊が聴覚記憶に影響を与えなかったことから,前脳基底部-皮質系が聴覚情報の保持に関わる経路である可能性を示している. 一方,前脳基底部の破壊の効果は視覚記憶には著しく,遅延時間の長さに関係なく,チャンスレベルまで正答率を低下させた.前脳基底部破壊が短期記憶を阻害したというよりは,むしろ,課題のルールそのものを失わせた可能性を考えることができる.すなわち,前脳基底部は視覚情報の保持に関わる長期記憶(ルール)に関与し,それが今回の破壊によって消失したのではないか.
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