Research Abstract |
この研究の目的および平成16年度の研究計画との関連について研究実績の概要を下記の1,2,3にまとめることができる。 1.国内美術館のワークシートの分析については,セルフガイドとして立案された美術館ワークシートを収集し分析した。この結果,北海道県立近代美術館,東京ステーションギャラリー,名古屋市美術館,東京都写真美術館等質の高い鑑賞用ワークシートを作成していることが分かったが,問いの意図などについて改善の余地があることがわかった。また,学校と連携した教材として共同開発されたものではないため授業での利用の方法までは構想されていないことがわかった。しかし,問いの形態や表現活動と結びつける手法には学ぶべき点が多かった。 2.テイト・ギャラリー(ロンドン市)などの閲覧と資料収集については,まず,テイト・ギャラリーの展示方法が,すでに教育的な配慮に基づいた優れた方法であることが理解できた。すなわち,歴史主義的方法論ではなく,テーマに基づく展示であり,さらに,静物をテーマとして扱う場合にも,揺れ動く現代の人間像と関連づけて,鑑賞者に親近感を持たせるなどの配慮が随所に見られた。この点,鑑賞用ワークシートの開発にとって示唆を得た。また,ロンドン大学のパム・ミーチャム氏から鑑賞と批評の関連について,イヴライン・ロウ小学校校長のゲーリー・フォスケット氏からは,地域の芸術家を学校に招く実践について学ぶことができ,ともに鑑賞教育を学校と美術館が連携して進めるうえで有益な情報となった。また,テイト・ギャラリーでは,収蔵作品に関する鑑賞用ワークシートであるアクティヴィティー・カードを入手することができ,この教材の方法論から美術館の教育普及活動を学ぶことができた。また,映画や写真を鑑賞対象とするICAの活動について資料を収集することができたので,これらを踏まえ,写真などの作品の教材化を検討する基礎ができた。 3.美術館と学校が連携して鑑賞教育を推し進めるための研究協力態勢の整備については,徳島県立近代美術館をモデルケースとして捉え,この美術館が収蔵している膨大な作品群の中から図画工作および美術の鑑賞教育にとって,教材化が適切であり容易な作品群について,学芸員と教員とともに検討し,抽出した。 そのうえで,徳島市内の公立小学校と公立中学校にて,研究代表者が実際に開発に携わったワークシートを実際に利用して行った授業を観察して,記録を取り,ワークシートの目的・利用方法・学習成果について,学芸員と教員とともに検討し,教材としての有効性と改善点について考察した。これらの機会を通じて,美術館と学校が連携して鑑賞教育を推し進めるための研究協力態勢を整えた。このとき,使用したワークシートを英文に置き換え,次年度には世界の主要な美術館に送付し,研究交流を促すとともに,改善点について意見などを求め,より良い教材としてのワークシート作成を期すことにする。
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