2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16540354
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
筒井 泉 高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教授 (10262106)
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Keywords | 量子エンタングルメント / 可解系 / 特異点 / 量子ゲーム / 量子井戸 / 量子計算 |
Research Abstract |
初年度の課題として、研究実施計画に従って1.量子特異点と粒子系の統計的性質の解明、2.可解系への応用について研究した。また2.の副産物として3.量子計算への応用を、さらに新たな課題として4.量子ゲーム理論の一般的枠組と量子性についても、併せて研究を行った。 まず、1.は特異な仕切壁のある量子井戸において、井戸中の多粒子系の物性を、仕切壁を量子特異点と見なして調べたもので、特に仕切壁に発生する量子圧の温度依存性および粒子の統計依存性について詳細に分析した。その結果、量子圧は極低温で零でなく有限であり、低温域で最小圧となった後、温度の1/2乗で発散することがわかった。極低温圧や最小圧の値は、粒子がボソンの場合は粒子数Nに、フェルミオンの場合にはNの2乗に比例するスケーリング則があり、粒子の統計依存性が明瞭に現れることを発見した。 2.は、量子特異点の一般論を用いてK=3 Calogero模型の量子解の一般的化を行ったものである。模型を提唱したCalogero自身の解は、ポテンシャルの特異点での境界条件としてDirichlet型を採り、かつ固有状態を対称(boson)、反対称(femion)状態のみに限定したものであったが、本研究では、量子特異点の一般論から許されるU(2)の特異点族のうち、対称性から2パラメーター族に限定された解で、かつ対称群の一般の既約表現になっているものを構築することに成功した。これはCalogeroの解だけでなく、従来より予想されていた調和振動子系に連続的に移行する解をも含んだもので、現在知られているN=3 Calogero模型の最も一般的な量子解となっている。 3.の研究では、U(2)族の量子特異点を外部から制御することによって、1-qubitに対する任意のユニタリー時間発展を生成する可能性を調べた。これは量子特異点を持つ調和振動子系が持つ、振動の半周期毎に生じる再起現象の性質(caustics)を利用したものである。実際、この種の系に対しては、時間発展ユニタリー行列と量子特異点を特徴づけるU(2)行列との間に同一性が成立し、これを用いて任意のユニタリー時間発展を遂行できること、すなわち、1-qubit演算が行えることを示した。 4.は、近年話題になっている古典ゲームの量子化によって定義される量子ゲームにおいて、発見された量子最適解(Nash平衡解)が、本質的に量子解と言えるかどうかを吟味するものである。この目的のため、まず量子ゲーム理論の一般的枠組みを構成し、量子ゲーム理論の内容は古典ゲーム理論族と、量子干渉効果から成ることを明かにした。これによって、実は問題となった量子解よりも最適な解が存在し、新しい最適解は量子エンタングルメントを持ち真の量子解となっていることを明かにした。
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