Research Abstract |
咋年度着手した徳島県の勝浦地域,熊本県の八代南方の海浦地域,および和歌山県湯浅地域の下部白亜系で,詳細な追加調査と汽水性二枚貝類のサンプル採取を行った. いずれの地域においても,チャネルを充填する数メートルの粗粒砂岩層に始まり,しばしば石炭層を挟む細粒堆積物で終わる堆積サイクルが認められた.このサイクル形成に伴う環境変化を復元することによって汽水性貝類群集の生息場を復元することができる.例えば,徳島県勝浦地域辰ヶ谷では,チャネルを充填した粗粒砂岩上位の細粒堆積物中に,薄い炭層の繰り返しが認められ,小規模なサイクルが認められる.ある層厚2.5mの小サイクルでは,炭層に始まり上位に向かって,腹足類の多い化石群,Costocyrena化石群,自生産状のIsodomellaを含む化石群集,カキの密集層,腹足類中心の化石群,そして再び炭層と変化する.これは1回の海進と海退を表しており,カキの密集層が最大海氾濫面に相当し,堆積物供給が減少するとともに,塩分が最も濃くなった時期の堆積物と解釈できる.逆に,自生産状のIsodomellaは,より不安定な場の生息者として位置づけることができる.また,このサイクルの上下には,化石をあまり含まない潮汐堆積物と考えられる砂岩シルト岩の薄互層があり,化石多産層準は,潮汐など堆積作用の影響の少ない場に限られることが分かる.このように,汽水域においても,底生動物の生息場の物理的安定性が二枚貝にとって必要であることが示唆される. 本研究において,上記のIsodomellaのほか,Tetoria, Hayamina,など合弁で生息時の姿勢を保持した産状の汽水性二枚貝をいくつか記録することができた.従来報告されてきた汽水性貝類群集には異地性の疑いが少なからずあり,確実に自生の群集を把握することが,汽水性貝類群集のより正確な復元につながるものと期待される.
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