2005 Fiscal Year Annual Research Report
均一触媒反応による星間分子生成の可能性の分子軌道論的探求
Project/Area Number |
16550011
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
相原 惇一 静岡大学, 理学部, 教授 (40001838)
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Keywords | 密度汎関数法 / 星間分子 / 触媒反応 / PAH陽イオン / ベンゼン陽イオン / ナフタレン陽イオン / フラーレン / シアノポリイン |
Research Abstract |
われわれは昨年度、密度汎関数法(DFT)を用いて、多環式芳香族炭化水素(PAH)の陽イオンラジカルが触媒となって、気相において活性化エネルギーをほとんど必要とせずに、代表的な星間分子前駆体と水素原子から星間分子が生成することを見いだした。ところが、極低温の宇宙空間での化学反応を議論するには、非常に高精度で活性化エネルギーを算出する必要があるが、DFTではそれが十分保証されないことが分かった。そこで原点に戻って、最も簡単な芳香族炭化水素イオンであるベンゼン陽イオンを触媒として、2個の水素原子から1個の水素分子を生成する反応を、CCSD(T)までのレベルの計算によって追跡し、最も蓋然性の高い活性化エネルギーがMP2とB3LYPで求めた値の中間にあり、活性化エネルギーの計算値は基底関数のレベルを上げることにより低下する傾向にあることを確認した。このような傾向をもとにすると、ナフタレン陽イオンを触媒として、CH_3、OH、C_2H、NH_2、CNなどのラジカルが水素原子と反応して、メタンCH_4、水H_2O、アセチレンHCCH、アンモニアNH_3、シアン化水素HCN、イソシアン化水素HNCが生成する反応の少なくともいくつかは、ほとんど活性化エネルギー(<1kcal/mol)を必要とせずに進行すると考えられる。特に興味があることは、CNと水素原子との反応で、HCNが生成する経路よりHNCが生成する経路の遷移状態のエネルギーが低いことで、このことは、宇宙において熱力学的に不安定なHNCが比較的多く生成することの理由になるかもしれない。精度を下げたDFT計算によると、フラーレンC_<60>やシアノポリイン類の陽イオンも、PAH陽イオンと同様に、水素分子や星間分子の生成反応の触媒となる可能性がある。
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