Research Abstract |
本年度は,前年度に見いだした,ジスピロ[5.4.5.0]ヘキサデカ-1,4,7,9,12,15-ヘキサエン-3,14-ジオン骨格を有する化合物に関して,さらなる研究を行った。ベンゾ[b]チオフェン縮環体からベンゼン環を取り去ったジチエノ縮環体を合成し,チオフェン環のα位の反応性を利用することで,スピロ構造を有した新たな誘導体への展開を考えた。その第1歩としてジチエノ縮環体から臭素化,3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリング,DDQによる酸化を経て,ビス(スピロジエノン)骨格をもつ新規なクォーターキノンを合成した。得られたキノンは金属光沢のある暗緑色結晶で、その吸収スペクトルは675nmに強い吸収を持ち、吸収端は900nmに達する。サイクリックボルタンメトリー法によりその酸化還元挙動を調べたところ、温度によって異なる還元過程をとることを示唆した興味深い結果が得られた。 また,ジチエノ縮環o-ターフェノキノン誘導体の合成研究にも着手し,ベンゾ[2,1-b:3,4-b']ジチオフェン骨格とベンゾ[1,2-b:4,3-b']ジチオフェン骨格を持つ誘導体について合成を検討した。それぞれ前駆体となるビスフェノール体を分子内McMurry反応を鍵反応として合成し,フェリシアン化カリウムによる酸化反応を検討したところ,共にキノン体ではなくジラジカル体と思われる化学種が生成した。また,酸化反応の反応時間を長くすると別の化学種へと変換されることもわかった。ベンゾ縮環体との挙動の違いは,6員環から5員環への立体障害の減少だけでなく,ベンゼン環とチオフェン環の芳香族性の違いも反映していると考えられる。
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