Research Abstract |
長期循環補助を目的とした定常流型補助人工心臓は,拍動型補助人工心臓に比べて小型でポンプ効率が高く,また弁が不要であるなど数々の長所を持っている.しかしその一方で,回転軸の軸シール問題を克服しなければならない.すなわち,「血液の軸シール」がうまく行くか否かが,定常流型補助人工心臓開発の成功の鍵を握る.この問題を解決するために,クールシールシステムをともなった血液密封用メカニカルシールが提案され,その開発が進められてきた.しかし,シール摺動面の表面粗さは,一般産業機械の経験をもとに決定されており,実際の定常流型人工心臓の軸シールとしてどのような値が最適であるかの検討はなされていない.そこで本研究では,このような特殊な状況を考慮しつつ,摺動面の表面粗さが軸シール特性に及ぼす影響を明らかし,定常流型人工心臓用メカニカルシールの設計の指針を得ることを目的とした. 実験においては,算術平均粗さの異なった3種類(Ra=0.009,0.088,0.170)のシートリングを用意し,その摩擦損失トルク,密封溶液およびクールシール液の漏れ量,およびシール摺動面の濃度を計測した.シール摺動面の温度計測は,摺動面近傍まで熱電対を埋め込むことにより計測した.実験パラメータとしては,クールシール液の流量,圧力,温度などを変化させ,クールシール液の冷却効果を検討した.その結果,最も摩擦損失トルクの少なかったものはRa=0.170,最も漏れ量が少なかったものはRa=0.009であり,最適な表面粗さを決定することが困難であった.シール摺動面の温度上昇は,平均で2℃程度であり,条件によっては5℃近く上昇した.その温度上昇量は,トルクの大きさと相関があり,摺動摩擦熱によって温度上昇していることが確認された.
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