Research Abstract |
本実験の目的は,陽電子消滅を用いて,金属酸化物の酸素ノンストイキオメトリや他の金属との接触による原子相互拡散による空孔型欠陥の導入・拡散・消失過程を明らかにすることにある. 本年度では,Si基板を熱酸化することにより作成したSiO_2/Si構造やSrTiO_3基板に金属ないしは金属酸化物薄膜を形成した構造について低速陽電子ビームにより評価した.前者では,SiO_2/Si上にMBEチャンバー中でAlを蒸着した.AESによる表面観察を行った後,消滅γ線ドップラー拡がり測定を陽電子打ち込みエネルギーの関数として測定した.また,電気的特性評価のため,AlをHPMにより除去,DCスパッタにより,再度Al薄膜を形成して,I-V特性及びC-V特性を測定した.また,SrTiO_3基板上にMBEによりAlを供給することにより,基板の酸素拡散を利用してAlを酸化し,Al_2O_3薄膜を形成した. Al薄膜形成により,SiO_2の絶縁特性が劣化することがわかった.基板温度が上昇するほど,その傾向は強くなるが,温度が300℃の場合においても同様の傾向を見出した.観測された電気的特性劣化は,Al原子吸着による酸素の拡散,酸化が原因であると考えられる.同様の試料を低速陽電子ビームで測定した結果,ドップラー拡がりの先鋭度を示すSパラメーターの値が,Al薄膜形成後に低下することがわかった.SiO_2中では,陽電子は電子と水素様のペア(ポジトロニウム:Ps)を形成してから消滅する可能性が高い.このPsが形成された場合,陽電子と電子の運動量は0に近くなるので,ドップラー拡がりは観測されずγ線のピークは先鋭化し,S値は増大する.観測されたS値の低下は,Ps形成がAl薄膜形成により抑制されたことを示す.すなわち,Al形成により,電子トラップないしは正孔トラップが形成され,陽電子ないしはスパー電子がこれらトラップに捕獲されることにより,Ps形成率が下がっていること考えられる.Al_2O_3/SrTiO_3についても,基板へ導入される欠陥についての情報を得た.以上の実験から,陽電子消滅を用いて,SiO_2中に導入されたキャリアトラップの深さ分布や金属/酸化物界面の欠陥が研究できることがわかった.
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