Research Abstract |
本実験の目的は,陽電子消滅を用いて金属酸化物の酸素ノンストイキオメトリや他の金属との接触による原子相互拡散による空孔型欠陥の導入・拡散・消失過程を明らかにすることにある.本年度では,high-kゲート絶縁膜を用いたMOS構造の欠陥について研究を行った. Si基板上にHfO_2,HfON等の薄膜(3-5 nm)を形成し,さらにゲートとしてTiN等の金属を形成した.作成した試料について,低速陽電子ビームを用いて,陽電子打ち込みエネルギーの関数(0-30 keV)として陽電子・電子対消滅γ線ドップラー拡がり測定を行った.得られたドップラー拡がりの先鋭度を評価するため,SパラメーターおよびWパラメーターを用いた. TiNを形成しない試料について,high-k膜中へ打ち込まれた陽電子の寿命は400 ps程度であった.金属酸化物のバルク中で陽電子が消滅する場合の寿命は170 ps程度,また酸素空孔,金属原子空孔の場合は,それぞれ200 ps,300 ps程度であると考えられる.よって,陽電子はhigh-k膜中で単一原子空孔よりもサイズの大きな空隙で消滅していると推定できる.また,Si基板へ打ち込まれた陽電子の感ずる電場を実験結果から求めた結果,high-k膜中には負電荷が存在することが分かった. CVDによりTiNを形成した試料では,TiN,high-k膜中の陽電子化学ポテンシャルの差に由来し,陽電子はhigh-k膜側へ流れ込み消滅する.Si基板内の電場の向きはTiN無しの場合と同じであった.しかし,PVDでTiNを形成した場合は,電場の向きは逆転し,Si基板へ打ち込まれた陽電子はhigh-k膜から反発力を受ける.これは,PVD-TiN形成によりhigh-k膜中へ酸素欠陥が導入され,正の電荷が形成されたことに由来する.
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