Research Abstract |
金属の抗菌性・抗真菌性のうち,抗菌性に焦点を絞り,それらを調べて,主として鉄鋼材料に応用して,抗菌性に優れた材料を作り出すことを目的として実験を行った。平成16年度においては,各種金属粉末の以下の三つの細菌,Escherichia Coli, Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniaeに対する抗菌性を検討し,どのような金属が潜在的に抗菌性を有しているかを明らかにした。その結果,抗菌性が確認されたいくつかの金属のうち,本年度は銅に着目し,食品加工において多用されているすずめっきに対して銅を合金化しその抗菌性を検討することにした。通常合金めっきは,水溶液中における複数の元素の同時電析により形成される。しかし,同時に水溶液中における電析を可能とする条件を実現するために,使用する化学種が限定される。しばしばそれはシアン化物のような毒性の高い化学種であったりするため,環境負荷性が高くなる危険性がある。そこで,本研究では銅,すずの単相を数μmの膜厚で積層させ,この積層単相膜を加熱処理して合金化をはかるプロセスを検討し,形成した合金皮膜の構造を決定し,その抗菌性を調査した。 積層単相膜を200℃から350℃の範囲内で加熱すると,各温度とも銅とすずの合金が形成された。温度が低く,すずの融点以下の場合は,すず,銅の固溶体が形成されるのみであったが,温度が上昇しすずの融点以上になると,1時間程度の加熱で,Cu_3Sn, Cu_6Sn_5が形成されることが認められた。温度が高くなると,最表面にすずの酸化物, SnO_2が形成されるのが認められた。 以上の結果をふまえて,350℃にて,3時間加熱した表面にCu_3Sn, Cu_6Sn_5が形成された試料,および銅めっき,すずめっきの三種類を試料として,フィルム密着法用いて,上記三種類(Escherichia Coli, Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniae)の細菌に対する抗菌性を調査した。その結果,すずめっきは全く抗菌性を示さず,一方銅メッキは強い抗菌性を示した。またすずと銅の合金めっき皮膜に関しては,強い抗菌性を示すことがわかった。この結果から,食品加工においてしばしば用いられるすずめっきは,それ自体は,あまり顕著な抗菌性を示さない。しかし,銅を合金化させることにより,抗菌性を持たせることができることがわかった。これは本熱処理合金化めっき法の作成において顕著なことと考えられる。すなわち,本熱処理合金化めっき法により作製される合金めっきは熱的に安定であり,崩壊せず,しかもごく微量の金属イオンとして表面において解離し,これが抗菌性に大きな役割を果たしているのである。
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