Research Abstract |
昨年度に続き,共同繁殖魚(協同的一妻多夫)ジュリドクロミス・トランスクリプタスを用い,雌による巣選択性,雌によるα雄とβ雄の父性の操作,さらに雄間の精子競争の実態についての飼育実験を行った.本種の雌は,くさび形の巣と幅の広い(そこでも産卵は可能である)巣を択一選択させたところ,すべてくさび形の巣を選択した.そこでは大型で優位なα雄は巣の広い部分にしか入ることが出来ず,巣の狭い奥部にいる小型のβ雄を排除できない.そのような巣では,雌は広い手前側で産卵した場合,α雄により多く,狭い奥部に産卵した場合β雄により多く産卵させることが出きることが,さらなる実験例により,統計的に有意であることが示された.また,α雄,β雄ともに,より多く受精に成功した場合,子供の保護行動をより多く行う傾向もさらに示された. α雄とβ雄には,受精を巡り精子競争が生じることは昨年の研究から明らかにされていた.本年度は,繁殖状態になった場合どのくらい早く精巣投資が生じるのか,検討したところ,より精子競争の危険の高いと予想された小型のβ雄では,繁殖状態になって10日後にはすでにかなりの精巣投資が完了していることが明らかになった.このような素早さは,これまでまったく予想もされていないことであり,雄の精巣投資への柔軟さを示す重要な資料である. また,タンガニイカ湖から持ち帰った生きたビッタータスを用いた,戦術雄間での精子の質についての研究も開始した.本種の雄の精子は戦術間で寿命やサイズに違いのあることがわかっている.本研究では,例えばスニーカー雄をなわばり雄にさせた場合など,雄の戦術の変化と精子の質の変化の対応を見ようとするものである.トランスクリプタスの例から,精子の質の切り替わりも予想外に早いことが考えられる.
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