Research Abstract |
生物が体内に測時機構をもっていることはよく知られているが,その多くは概日時計に関するものである。これとは異なって,目覚まし時計のようなタイマー式の測時機構については,ほとんど知られていない。われわれは,雄コオロギが性周期のうち,精包準備(SP)から求愛開始(CS)までの時間が一定(約60分)であることの仕組みについて研究し,それがタイマーによって制御されていることを示した。このタイマーは最終腹部神経節にあること,また,タイマーには温度依存性があるが,タンパク質合成は関与していないことも明らかにした。次なるステップは,タイマーニューロンの候補の探索であるが,それにふさわしい活動とはいかなるものであるかを検討するため,最終腹部神経節の生殖器支配運動ニューロンの発火パターンを長時間記録し,結果を詳細に分析した。実験では,雄コオロギの体を開き,固定し,最終腹部神経節の神経束のうち,生殖神経を経て各種生殖器官を支配する神経分枝から遠心性神経のスパイク活動を吸引電極で長時間記録した。雄の性周期を更新するためには,交接器の感覚毛を人為的に刺激して精包を放出させ,交尾期から交尾不応期へと変化させた。一方,雄のアンテナを雌の体に接触させて精包準備を誘発し,タイマーをスタートさせた。 その結果,スパイク頻度が常時一定で,時間依存性をもたないもの,2)常時自発活動がなく,タイマーストップ時の頃に突然,活動が開始するもの,3)SPから一定の時間経過後にゆっくりと活動が増大あるいは減少するものがあった。これらのうち,精包の形成になんらかの形で関わっている器官の運動ニューロンはタイプ3であった。この結果は,精巧な精包のパーツを仕上げるためには,時間的制御が重要であることを示唆している。それら運動ニューロンの背後にある大元のタイマーニューロンの同定が必要である。
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