Research Abstract |
植物の系統解析には,これまでの多くの研究では,葉緑体DNAの変異や核リボゾーマルDNAのITS領域が用いられてきた.しかし,これらのマーカーは,急速に種分化を起こした種群に関して十分な変異を蓄えていないことが多く,系統解析に有効ではないことがある. 日本産のユリ科ギボウシ属,メギ科イカリソウ属,シソ科ヤマハッカ属は国内でさまざまに分化しているが,これらの種群の葉緑体DNAや核ITS領域の変異は小さく,系統解析を行うのに十分な情報を持っていない.そこで,本研究では,核の少数遺伝子族を複数用いて,系統解析を行った. ユリ科ギボウシ属では,ADHの2遺伝子座とG3PDHの1遺伝子座をクローニングし,PCRプライマーを設計して系統解析を行った.3遺伝子座とも葉緑体DNAよりも変異を多く蓄積しており,これらの遺伝子の配列情報から構築した系統樹は,葉緑体DNAを用いて構築した系統樹よりも解像度が高い結果になった. メギ科イカリソウ属では,ADHの1遺伝子座とG3PDHの1遺伝子座を用いた.メギ科イカリソウ属では,これらの遺伝子の変異においても,十分な変異は見られなかったが,葉緑体DNAにおける変異よりは多くの変異が見られた.今回,配列を決定した領域は,これらの遺伝子座の一部だけなので,近接した領域の塩基配列をさらに決定することにより,系統解析を行うのに十分な情報が得られる可能性がある. シソ科ヤマハッカ属については,ADHの1遺伝子座しかクローニングできなかった.この遺伝子座においてほ,葉緑体DNAよりも多くの変異を蓄積しており,系統関係を推定するのには十分であった.この種群については,別の遺伝子座を単離することが今後の課題である. これらの結果から,核の少数遺伝子族の変異は,葉緑体DNAや核ITS領域よりも多くの変異を蓄積しており,系統関係の推定には有効であると考えられる.
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