Research Abstract |
真核生物の翻訳開始段階は蛋白質合成反応における主要な調節部位であり,細胞全体の活動度を規定している重要な反応である.開始段階は30余りのサブユニットから成る開始因子群がリボソームやmRNA,開始tRNAを中心として協調的に進行する.今まで,古細菌由来の開始因子を含めて幾つかの真核生物型開始因子サブユニットの構造が解析されていたが,サブユニット複合体の解析例はない.本研究の対象である(eIF-1)-(eIF-2)-(eIF-3)-(eIF-5)-(Met-tRNA_i-Met)マルチ複合体はこれらの複雑な相互作用を紐解き,開始反応のメカニズムを詳細に解明するキーであり,多くの研究者に注目されている.私たちは,平成16年度に酵母Saccharomyces cerevisiae由来のマルチ複合体のサブユニットeIF1,eIF2α,eIF2β,RPG1,NIP1,NIP1 N terminal domain,PRT1,eIF5の大腸菌大量発現系を構築し,様々な培養・誘導条件を最適化することでそれぞれの大量調製法を確立した.また,古細菌由来のマルチ複合体のコア-であるeIF2のサブユニットeIF2α,eIF2β,eIF2γの大腸菌での発現系を構築し,大量精製法も確立した.また,ゲルろ過高速液体クロマトグラフィーを用いることでeIF2α,eIF2β,eIF2γ間の結合を検出し,それぞれeIF2α-eIF2β,eIF2α-eIF2γ,eIF2β-eIF2γ,eIF2α-eIF2β-eIF2γの複合体をin vitroで形成・大量調製し,結晶化を試みた.そのうち,X線回折に適用するeIF2β-eIF2γ複合体の結晶を得て,2.8Å分解能での構造解析に成功した.eIF2βはeIF2γのGドメインに結合し,eIF2γのGTP結合サイトの近いところに配置されている.また,複合体と単独に解析されたeIF2γの構造を比較したところ,GTP結合・加水分解に関与するswitch Iのhelixの下流側のループはeIF2βと複合体を形成することによって,構造変化が見られる.さらに,このループが開始tRNAのMetと結合すると思われている窪みの傍にあることからeIF2βはeIF2の開始コドンを認識後にGTPの加水分解,tRNAから離れる反応に関与することが示唆されている.
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