2005 Fiscal Year Annual Research Report
有明海砂質干潟におけるマンガンの蓄積がアサリ稚貝の生残へ与える影響について
Project/Area Number |
16580162
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Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
高橋 徹 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (70369122)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堤 裕昭 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (50197737)
赤池 紀生 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (30040182)
野村 雄二 広島大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 助手 (80218370)
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Keywords | アサリ / 有明海 / マンガン / 干潟 / 重金属 / 環境毒性 / 稚貝 |
Research Abstract |
覆砂内外で稚貝死亡率に著しい差がある荒尾干潟において、覆砂地、非覆砂地、中間地点に調査定点を設置し、稚貝の着底、成長、生残について追跡した。また、底質の粒度組成の変動を記録するとともに、底質と間隙水から採取されたマンガンの形態分離をおこない、溶出可能マンガンを定量した。これらは大量死が起こった2000年夏の底質の凍結サンプルと併せて分析した。その結果、稚貝死亡率と溶出可能マンガン濃度との間には強い相関が認められ、大量死が起きるときの溶存可能形態のマンガン濃度から推定される間隙水中のマンガンイオンは、60mg/L以上となった。また、還元的環境下ではバクテリアの作用によりマンガンはイオンとして溶出しやすくなるため(Canfield et al 1987)、底質の泥分含有量もマンガン溶出に影響していると考えられた。なお、野外調査で採集された稚貝を用いて、室内飼育実験を行い、死亡条件の絞り込みをおこなった。その結果、単にマンガンイオンに暴露するだけでは上記の濃度でも死亡は認められず、底質を混ぜた場合にのみ生存率の低下が認められた。そのため、溶存態マンガンであっても、単独で稚貝の死亡を引き起こしているとは考えられず、「底質中の何らかの成分との相互作用が要因と考えられた。そこで、有機物を燃焼させた砂との比較実験を行った結果、有機物を含む砂の場合、溶存態マンガン濃度は徐々に低下していくにもかかわらず、稚貝の累積死亡数は上昇した。したがって、溶存態マンガンが底質中有機物の何らかの成分と反応して稚貝の死亡を引き起こしている可能性が強く示唆される。目下、底質成分を更に細かく分画することで死亡要因の絞り込みを行う一方で、稚貝組織切片を詳細に観察する病理学的変異の探索をおこなっている。しかし、現時点では特定部位の病変を発見するに至っていない。多岐にわたる染色法を駆使して神経や殻形成に関わる分泌細の逐次観察を進めている。それに加え、本年3月より、広島大学のMALDI-TOF MSの利用が可能となった。凍結切片をそのままMALDI-TOF MSにかける特殊な方法(安田&安田,2004)によりアサリ稚貝1個体といったごく微量サンプルからでも分泌顆粒中の各種ペプチドを特定することが出来る。死亡率が高い条件で飼育された稚貝をTOF MS分析し、特定ペプチドの分泌が認められた場合はIn situ hybridizationによって障害部位を特定する作業を進めている。アサリ細胞の初代培養と河川からのマンガン供給量解析は十分な結果を得られなかった。二枚貝の細胞培養には脊椎動物技術の応用だけでは通用しない部分がある事がわかり、引き続き試行錯誤を継続してゆく予定であるが、その一方で、カエル肝細胞を用いてMn,Zn,(イオン)の単独、複合暴露、およびE2との複合暴露実験をおこなった。その結果、Mnイオンは10^<-8>M以上、Znイオンは10^<-5>M以上の暴露でE2によるVTGの合成量が減少した、溶媒のHClによる影響を考慮した場合でも、MnイオンがE2によるVTG合成に何らかの抑制的な影響を及ぼしていることが示唆された。これは、稚貝死亡と直接関連がないとしても、他の動物一般への影響を示唆している。
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