Research Abstract |
1.慢性炎症を有するFIV感染猫に対するラクトフェリン(LF)の影響 (1)FIV感染猫の慢性炎症の評価 FIV陽性ネコ(ARC期4頭,AIDS期1頭)では,歯肉と頬粘膜に中等度から重度の難治性慢性炎症が観察され,そのためネコは流涎を呈し食欲はあるものの摂食困難となっていた.肉眼的観察では,患部は発赤・充血を示し,重度のものでは肉芽形成・出血などがみられた. (2)LF投与の効果 LF経口投与開始後,早期に疼痛スコアの改善が観察され,続いて流涎の消失と摂食量の増加が観察された.一方,肉眼的な炎症の変化は乏しかった.血液像では,血清蛋白の電気泳動像で,慢性炎症を示すγグロブリンの低下が観察された.AIDS期で難治性口内炎を呈していたネコでは長期間(37日間)の経口投与を実施した.その結果,炎症の緩和が観察され,死亡後の剖検でも口腔内の炎症の進行は認められなかった. 2.ラクトフェリンのネコ末梢血単核球(PBMC)のサイトカイン産生に対するシグナル伝達機構への関与 (1)ネコPBMCのサイトカイン産生に対するLFの効果 PBMCをConA刺激すると,IFN-γmRNAの発現だけが認められた。この実験系にLFを添加したところ,ConA刺激30分前,刺激後10分,20分,40分後に加えてもIFN-γmRNA発現は強く抑制された.また,マウスのマクロファージ・単球系細胞をLPS刺激してLFを加えたところ,IL-1βやTNF-αのmRNA発現も抑制された.このことから,LFは慢性炎症を有するネコのPBMCのサイトカイン産生を抑制することで抗炎症効果を現していた可能性が示唆された. (2)ネコPBMCにおけるIFN-γ発現のシグナル伝達系に対するLFの影響 4種類のキナーゼ阻害剤による検討で,ネコPBMCにおけるConA誘導性IFN-γ発現はgenisteinおよびPD-98059によって抑制された.次にConAがPBMCにおけるPTKならびにERKに及ぼす影響を調べたところ,ConA誘導性IFN-γmRNA発現にはPTK, ERKシグナル伝達経路の活性化が必要であり,この反応はSAPK/JNKあるいはp38カスケードを介さないことが明らかとなった.LFはPTKならびにERKの活性化が終了した後に添加された場合でも,IFN-γ発現を抑制したことから,LFの抑制効果は,ERKの下流に干渉するか,あるいは別経路を介して行われているものと思われた.
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