2005 Fiscal Year Annual Research Report
化学兵器由来と考えられるジフェニルアルシン酸中毒の臨床学的研究と治療法の開発
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16590811
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石井 一弘 筑波大学, 大学院・人間総合科学研究科, 講師 (70323293)
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Keywords | 有機ヒ素化合物 / ジフェニルアルシン酸 / 小脳症状 / ミオクローヌス / 振戦 / 脳血流シンチグラフ |
Research Abstract |
平成15年(2003年)3月飲用井戸水に混入したDPAAによる健康被害が茨城県で発覚し、現在までに高濃度暴露者(1〜2mg/kgの暴露;A地区)と比較的高濃度暴露者(0.1mg/kg以下の暴露;B地区)併せて135名が暴露者と認定され、定期的に健康診査を実施されている。本中毒の臨床症状は多彩で小脳-脳幹症状と思われる運動失調、ミオクローヌス、振戦に加え、睡眠障害、記銘力障害、視覚異常などである。これら症状は、一過性であり暴露中止後により数週間でほぼ消失するが、小児では精神運動発達遅滞をみとめる例もある。さらに多動傾向、学習障害などADHD様の症状を示す児や自律神経障害を示す児もみられ、DPAAとの関連が疑われている。小児の一部に肝機能障害、脳波異常や軽度の脳萎縮が認められた。脳血流シンチグラフの定性的視覚的解析では(1)側頭・後頭部、(2)小脳、(3)側頭葉内側部(海馬付近)の血流低下傾向がみられ、この脳血流低下部位は、急性期の症状責任部位に一致していた。また慢性期のA地区暴露者や症状がないB地区暴露者でも高率に同部位の脳血流低下が認められた。DPAA暴露におけるこれら特定脳部位の血流低下の意義を明らかにするため、暴露者のFDG-PET解析、若年健常者の脳血流データベース作成、モデル動物におけるPETを行っている。生体試料からのDPAA検出は暴露の指標である。量の測定、解析において、暴露中止後も血清からは約200日、尿からは約300日経てもDPAAが検出される。爪は3年以上経てもDPAAが検出された。髄液からもDPAA検出は可能で、髄液中DPAA濃度は血清中の3-5%の濃度であった。本中毒の臨床マーカー候補として、生体試料の血液、尿、爪、毛髪および脳血流シンチグラフが挙げられるが、特に脳血流シンチグラフはDPAAの生体影響を測る臨床マーカーとして有用と考える。慢性期症状を有する健康被害者や、小児では精神運動発達遅滞なども認められることから、今後も厳重な追跡調査が必要と思われる。
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Research Products
(2 results)