2006 Fiscal Year Annual Research Report
化学兵器由来と考えられるジフェニルアルシン酸中毒の臨床学的研究と治療法の開発
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16590811
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石井 一弘 筑波大学, 大学院人間総合科学研究科, 講師 (70323293)
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Keywords | 有機ヒ素化合物 / ジフェニルアルシン酸 / 脳血流シンチグラフィ / 小脳症状 / ミオクローヌス / 振戦 |
Research Abstract |
平成15年(2003年)3月飲用井戸水に混入したジフェニルアルシン酸(DPAA)による健康被害が茨城県で発覚し、中毒症状として、運動失調,ミオクローヌス,振戦などの小脳・脳幹症状を中心に後頭葉、側頭葉の症状が確認されている。さらに小児では精神運動発達遅滞もみとめられる。現在までに151名が暴露者と認定されて、健康診査を定期的に施行している。脳血流シンチグラフで小脳・脳幹と後頭葉の血流低下が明らかになり、定量的画像統計解析法にて有意に血流低下していることが示された。ポジトロン・エミッション・トモグラフ(PET)でも同様の脳部位に糖代謝低下が見られたことから、DPAA暴露の臨床マーカー(客観的生体指標)として活用できると考えられる。DPAA曝露者の生体試料(尿、毛髪、爪、血清、血球、髄液等)から抽出分離を行い、LC-ICP/MS, LC/MS/MSでDPAAと生体内代謝物と考えられるフェニルアルソン酸、フェニルメチルアルシン酸を新たに同定した。サロゲート(13C:安定同位体)にてこれらを定量し、生体試料中のDPAAとその代謝物の定量を行った。モデル動物実験ではラットにDPAA(5mg/kg/day)の28日間連続経口投与を実施し、ヒトと同様な症状発現に成功した。さらに各臓器におけるDPAAとその代謝物を定量し、体内分布を調べた。DPAAは大脳、小脳、脊髄などの中枢神経系には移行し難く、中枢からの排泄は他の臓器と比較し、遅延する傾向がみられ、投与中止14日後でも中枢神経系ではDPAA等の残留傾向がみられた。特に小脳・脳幹に蓄積しやすいことが判明した。ジフェニルアルシン酸の排泄経路として尿から約50%糞便中から約50%排泄されることが明らかになった。糞便中の排泄量を経時グラフにするとDPAAは腸肝循環していることが判り、この腸肝循環を断ち切る吸着剤が体外排泄を促進させ、DPAAの急性期治療として利用できると考えられた。今後、候補物質による体外排泄促進実験を計画中である。
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Research Products
(2 results)