Research Abstract |
神経因性疼痛の発症過程及び痛み伝達に,ATP受容体の一つであるP2X受容体が重要な役割を持つことが明らかとなった。しかも神経因性疼痛形成時において,P2受容体活性化を介して抑制性に働くGABA受容体機能が逆転し,興奮性に働くことが新たに分かってきた。そこでP2受容体を介したGABA受容体チャネルの逆転機構解明に関して,細胞内Cl代謝に関わるトランスポータの機能解析を本年は推進した。神経細胞内のCl-濃度は,正常時は約10mM未満と他の細胞と比較すると,非常に低い濃度に保たれている。細胞外Cl-濃度は,120〜130mM前後であり,この細胞内外のCl-イオン濃度差によって,GABAがシナプスより放出された際にGABA受容体チャンネルを活性化し,細胞内にCl-イオンの流入を引き起こし,膜電位の低下,ひいては細胞興奮性の低下をきたす。神経因性疼痛形成時には,この細胞内Cl-濃度上昇がおこり,GABAが放出されても,Cl-はGABA受容体チャネルを細胞内から細胞外へと移動し,脱分極ひいては細胞興奮を来す。神経細胞において,通常はCl排出機構が発達しており,細胞内から細胞外へのClくみ出しにKCC2トランスポータが主に働いている。このトランスポータと共存して働くタンパクの探索をyeast two hybridizationを用いて行い,その結果,脳のcreatine kinaseの可能性が示唆され,このタンパクの強制発現系細胞による解析により,KCC2トランスポータ活性化が明らかとなった。また現在,GABA受容体チャネルのガンマサブタイプの膜移行が阻害されたモデルマウスを用い,この逆転現象とGABA受容体サブタイプとの関連を解析中である。
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