Research Abstract |
上皮性卵巣癌における耐性遺伝子を用いた抗癌剤感受性試験の有用性を検討した.評価可能病変を有し,化学療法施行前に組織が採取できた上皮性卵巣癌のべ75例を対象とした.初回化学療法としてTJ療法(Paclitaxel, CBDCA)が33例に,2次または3次化学療法としてEP療法(Etoposide, CDDP)またはCPT-11/CDDP療法がそれぞれ22例と20例に行われた.患者の同意を得て,腫瘍組織からRNAを抽出し,MDR-1,Topo IおよびTopo IIαの遺伝子発現量をreal-time RT-PCR法を用いて,ribosomal RNAを内部指標として測定した.日本癌治療学会の効果判定基準に基づき化学療法の効果を判定した.化学療法の効果を指標として,ROC曲線を用いて各遺伝子発現のcut-off値を算出し,抗癌剤感受性試験の正診率を検討した.化学療法の奏効率はTJ療法で59.0%,EP療法で31.8%,CPT-11/CDDP療法で30.0%であった.遺伝子発現のcut-off値は,TJ療法に対してMDR-1が80,EP療法に対してはTopoIIαが90,CPT-11/CDDP療法に対してはTopoIが200であった.MDR-1ではcut-off値未満で有効と判定し,Topo IおよびTopo IIαではcut-off値以上で有効と判定した.その結果,TJ療法に対する正診率は69.2%であり,EP療法で80.0%,CPT-11/CDDP療法で61.1%であった.この成績は従来の感受性試験を上回るものである.従来の抗癌剤感受性試験では,組織や細胞の培養が必要であるため,手技が煩雑で,判定までの時間もかかるのに対して,遺伝子診断は簡便で検体の移送も容易なことから,遺伝子を用いた抗癌剤感受性試験は期待される手法であり,現在,臨床応用に向けてさらなる検討を行っている. E1A遺伝子導入後,p53蛋白発現が増加し,それに伴いBax蛋白やcleaved Caspase9が増強した.この,p53経路を介したE1A誘導アポトーシスは,siRNAによりキャンセルされた.E1A遺伝子導入による殺細胞効果を検討した成績では,アデノウイルスベクターによるE1A遺伝子導入後,48時間から著明な細胞数減少がみられた.同時に,アポトーシス細胞比率の著明な上昇が観察された. 腫瘍の生物学的特性に基づいた本研究により,上皮性卵巣癌における抗癌剤誘導性アポトーシスとその腫瘍の生物学的特性が明らかになるとともに,卵巣癌に対する治療の個別化の可能性が示唆された.
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