Research Abstract |
バソプレシン,その代謝断片及び合成類縁ペプチド(以下バソプレッシン類と略す)は記憶の増強効果があることが,動物行動実験の受動回避学習課題と空間認知課題であるMorris Water Mazeにおいて示された。このバソプレッシン類はホスホリパーゼC(PLC)やプロテインキナーゼC(PKC)を活性化する事で記憶の増強効果を示していたが,本研究において,PLCよりも,下流の情報伝達経路もバソプレシン類の作用出現に関与している事を示唆した。つまり,PLCは細胞内カルシウムの濃度上昇を引き起こしPKCの活性化に関与するが,バソプレッシン類はこの作用ばかりではなく,PLA_2によって作動されるアラキドン酸代謝経路に関与する。つまり,PLA_2は,アラキドン酸の代謝を促進し以降,シクロオキシゲナーゼ(COX)がプロスタグランジンの産生を促す,要の酵素である。本研究ではバゾプレシン類のPKC以外の細胞情報伝達系解明のため,このアラキドン酸代謝経路の一部であるCOXの阻害薬であるインドメタシン,NS-398,アセトアミノフェン,ピロキシカム投与で,記憶の減弱効果を検討した。バソプレシン類の記憶増強効果はCOXの阻害薬である,インドメタシンによって減弱された。そこで,COX-1の特異的阻害薬であるピロキシカムとバソプレシン類の併用で検討を試みたが,バソプレシン類の効果の減弱は認められなかった。一方,COX-2の特異的阻害薬であるNS-398との併用ではバソプレシン類の減弱効果が認められた。また,COX-3の検討もアセトアミノフェンを使って行った。アセトアミノフェンがCOX-3を特異的に阻害する濃度では記憶の減弱効果が認められなかった。これらのことはバソプレッシン類の中枢作用はアラキドン酸代謝経路を介する可能性があり,COX-2が細胞内情報伝達系路に関与している可能性が示唆された。
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