Research Abstract |
本研究課題では,磁場の生物に対する影響を評価することを目的として,定常強磁場による以下の実験を行った. 最大10テスラの定常磁場を発生させることができる超伝導マグネット中で,線虫C. elegansおよび初期発生中のメダカ卵に対する10テスラの磁場を垂直方向に24および48時間曝露した.その後,線虫は発生,成長および繁殖力を5世代後まで観察した.また,メダカは孵化時間,成長,繁殖力を検討した.線虫は,卵,幼虫期(L1からL4期),および成虫期に曝露したものについて検討したが,成長,繁殖能の顕著な変化は見られなかった.また,系世代的な影響も確認できなかった.一方,メダカは発生初期卵を曝露したところ,発生過程においてコントロールとの違いは観察されなかったが,孵化までに要する日数がコントロールと比較して数日早くなる傾向が見られた.さらに,数回の曝露実験中に稚魚が成長するにつれ,遊泳および行動に異常をきたしたものが現れる場合があった.その遊泳と行動の異常は,魚体制御の傾きと頭を上にした縦泳ぎおよび遊泳中の突然筋肉が硬直して垂直方向に回転する行動であった.また,縦泳ぎをしたメダカは成魚まで成長しなかった.しかしながら,異常行動を示す雌雄ペアからの2世代目のメダカには異常行動をとるものは現れなかった.磁場方向・再現性および解剖学的な更なる検討が必要であるが,以上の結果から,強磁場環境は生物に影響を与える可能性があることが示され,その影響は遺伝子レベルではなく,おそらく神経系の発達などに強く影響を及ぼすと考えられ,高等な生物の発生時期などに顕著に現れる可能性が高いことが示唆された.
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