2004 Fiscal Year Annual Research Report
共生にむけたイスラーム世界との対話促進のための実践的方法の開発
Project/Area Number |
16651117
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
内藤 正典 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 教授 (10155640)
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Keywords | トルコ / EU / イスラーム / キリスト教 / 移民 / 政教分離 / 9.11 / 多文化主義 |
Research Abstract |
本研究において、平成16年度は、トルコのEU加盟問題をめぐるヨーロッパ諸国の世論の反応及びトルコ国内の反応について、トルコ、フランスを中心に現地調査をもとに分析した。特にEU諸国の側から、トルコをイスラーム世界の一員としてヨーロッパとの文化的異質性を強調する報道が数多くなされた点に注目した。建国以来、ヨーロッパ型の近代国家建設を志向して来たトルコは、厳格な政教分離政策を堅持してきたが、それにも関わらず、政教分離のモデルであったフランスにおいて、トルコのEU加盟に対して強い違和感が示されていた。この原因として、9・11及びマドリード列車爆破テロ事件の影響により反イスラーム感情が高まっていること、EU統合に伴なうフランスの文化的独自性の喪失への懸念、ムスリム移民の社会統合の失敗などの要因が重なり合っている実態を解明した。更に、オランダのように、従来異文化に寛容な多文化主義政策を採用してきた国でも、寛容の限界を強く主張する政治勢力が登場してきた点に注目した。また、ドイツにおいては、キリスト教政党支持者の間に、宗教の相違を前面に出して、トルコのEU加盟をイスラームによるキリスト教ヨーロッパへの挑戦と受け取る動きが加速していることが判明した。これらの状況を総合的に分析すると、中東諸国において唯一西欧型の近代化政策を採用してきたトルコでさえ、ヨーロッパ連合の一員として承認しがたいという世論がEU加盟国に広範に存在することが明らかとなった。言うまでもなく、この傾向は近年の西欧世界とイスラーム世界との緊張を反映するものだが、この緊張を緩和するための政策的課題とその基盤となる思想的枠組みとは何かを次年度において具体的に提示し、イスラーム世界との対話促進のための方途を具体的に提示していく。
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