2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16652018
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
泉谷 安規 弘前大学, 人文学部, 助教授 (00281907)
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Keywords | 催眠術 / 精神医学 / 精神分析 / フロイト / 19世紀フランス文学 |
Research Abstract |
本研究の主題は、メスメリズム(催眠術)が19世紀以降のフランスの社会や文化、特にフランス文学にどのような影響を与えてきたかを研究することである。 本年度は、まず、18世紀末から精神治療行為として巷間に広まってきたメスメリズムが精神医学にどのような取り込まれ方をしてきたのか、その形態と歴史をさぐる精神医学史の側面をたどってきた。その一方で、催眠術がフランスの社会や文化に与える影響の具体例として、文学作品に焦点をあて、19世紀の代表的な作家、バルザック、ユゴー、ゴーティエ、フローベールの作品を分析してきた。催眠術に対する各作家、あるいはその時代の人々の態度はさまざまで、あるときは催眠術を新たな科学の発見として称揚したり、あるいはこれを手品や詐欺のようなものとして疑問視する動きもあった。 しかしながら19世紀末、催眠術がヒステリーの治療に効果的であることがシャルコーによって発見されるやいなや、このメスメリズムに対する見方は一変し、精神医学の新たな治療法として注目を浴びる。かててくわえて、この時期、精神分析の創設者フロイトがシャルコーの下で学び、それが後に精神分析の理論を生み出してゆくきっかけとなることから、メスメリズム(催眠術)から精神分析へと流れ込む潮流がうまれることになる。ほぼ同時期に執筆活動をし、かつ自身精神疾患を患っていた作家モーパッサンの書いた一連の恐怖小説・幻想小説は、そうした意味では、精神分析的見地から解釈されうる作品であるといえる。 本年度までの研究実績は、以上にとどまるが、精神分析が20世紀の文学に大きな影響を与えていることは周知の事実であり、今後、特に精神分析の理論を積極的に取り入れたシュルレアリスム、あるいはその周辺に位置する作家の研究に着手する予定である。
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