2004 Fiscal Year Annual Research Report
国際河川を巡る政治力学と国際環境(中東・中央アジア)
Project/Area Number |
16653013
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
清水 学 一橋大学, 大学院・経済学研究科, 教授 (60282373)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊能 武次 和洋女子大学, 人文学部, 教授 (40267901)
|
Keywords | イギリス帝国主義 / エジプト / 綿花モノカルチュア / ナショナリズム / 国際河川の国有化 / ソ連邦 / エネルギー / 地域協力 |
Research Abstract |
1年間の萌芽研究において重視した課題は、今後の本格的な研究において追求すべき問題点と視点を整理することであった。中東・中央アジアの国際河川における水の配分問題が一層緊迫の度合いを強める傾向にあることは我々の研究の前提であったが、それはあらためて確認された。問題の巨視的な歴史的流れについては、ノルウェーの歴史学者Terje Tvedtの研究が示唆を与えてくれる。 ナイル川をめぐる過去100年ほどの歴史を図式化して言えば、ナイル川は英帝国主義下の植民地支配という流域全体を想定した政策の時代から、脱植民地過程におけるナイル川の国有化の時代へ、そして冷戦終焉後の新たな流域全体の利害調整の時代へと変化してきている。中央アジアのアム川やシル川を見ると、ロシア・ソ連時代の広域的な流域の把握が、ソ連崩壊に伴って各共和国を単位とする流域政策の分断化と抗争・対立の時代に入った。しかし流域全体の利害調整のメカニズムはまだ形成されていない。中央アジアでは綿花モノカルチュアを基礎とする水多消費型農業の発展と環境破壊が進んできたために、対立構造は厳しい。さらに上流国における水力発電の課題と下流国における農業用水との利害対立も未調整である。しかし逆に言えば、国際河川を巡る調整とエネルギー協力こそ、中央アジア全体の地域協力の核になりうることを示している。 また、ナイル川をめぐる近代的なイデオロギーあるいはアイデンティティーの形成の問題があり、エジプトにおいてナイル川とエジプトを一体視し、ナイル川をエジプトの所有物だとする伝統的な感情や考え方があり、それと「スーダンはエジプトの一部」とする感情の歴史的な形成も無視できない課題である。水量の制約のなかでナイルの問題がエジプトの外交政策の方向性を決める上で重要な役割を果たす根拠がそこにある。
|
Research Products
(5 results)