2004 Fiscal Year Annual Research Report
大正期から昭和初期の小学校唱歌科における鑑賞指導の史的展開
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16653090
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
三村 真弓 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (00372764)
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Keywords | 小学校唱歌科 / 音楽鑑賞指導 / 大正期〜昭和初期 / 青柳善吾 / アメリカ式レコード鑑賞指導法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、大正後期にアメリカから導入された音楽鑑賞指導が我が国にどのように受容され、定着し、変貌し、発展していったかを明らかにすることである。本年度は、大正期から昭和初期戦前に我が国で出版された音楽鑑賞に関する著書や雑誌等に掲載された論文を数多く収集した。また、アメリカで出版され我が国に紹介されたレコード鑑賞指導に関する著書も入手した。 本年度の研究の目的は、アメリカのレコード鑑賞指導法が我が国に紹介された大正13年以前の音楽鑑賞指導の実態を把握し、我が国独特の音楽鑑賞教育観を明らかにすることであった。そこで、東京高等師範学校附属小学校の唱歌科担当訓導であった青柳善吾に着目し、彼の著書及び論文を精査し、音楽鑑賞教育観を明らかにした。青柳は、数多くの著書や論文を通して当時の唱歌科担当訓導に大きな影響を与えた音楽教育界の中心的な人物の1人であった。 青柳は、大正4年の論文「鑑賞的教授に就て」にて音楽鑑賞指導の理論を構築し、さらに同年出版した『尋常小学唱歌科教授細目』において音楽鑑賞教材と音楽鑑賞指導法をカリキュラム上に位置づけた。これは、我が国の小学校唱歌科における音楽鑑賞の先駆けである。当初の青柳の音楽鑑賞教育論の特徴は、唱謡の前提としての鑑賞であり、教師の歌唱や器楽演奏を鑑賞するというものであった。鑑賞教材は、唱歌教材の補助として用いられ、他教科と連絡しているものが多かった。大正13年にアメリカのレコード鑑賞法が我が国に紹介されると、小学校唱歌科の授業において盛んにレコード鑑賞が行われるようになった。しかし、青柳はドイツの音楽鑑賞教育論の特徴である、教師の人格を通した音楽的陶冶という考え方を終始貫き、レコード鑑賞の有用性を認めながらも、教師自身の演奏による鑑賞教育を主張し続けた。 本年度の研究成果から、次のような仮説が導き出された。大正期から昭和初期の小学校唱歌科での音楽鑑賞指導は、アメリカの音楽鑑賞指導法の流れを汲むものと、そうでないものとに大別されると推察される。換言すれば、唱謡とは独立し系統的に行う鑑賞指導法と、唱謡を深めるための「鑑賞的取扱」の2者である。
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