2005 Fiscal Year Annual Research Report
エゾヤチネズミ個体群の密度依存性機構としての免疫力のコールドストレス
Project/Area Number |
16657006
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齊藤 隆 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教授 (00183814)
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Keywords | エゾヤチネズミ / 免疫力 / コールドストレス / 個体数変動 / 密度依存性機構 |
Research Abstract |
北方の森林に生息する動物の個体数は年次的に大きく変動し,動態メカニズムの解明は生態学の主要課題のひとつである.周期変動を含む多様な変動パターンを示す北海道のエゾヤチネズミでは,変動パターンの形成に密度依存性が強く関わっていることが明らかになっている.本研究の目的は,最近,マウスにおいて明らかにされた免疫能力におけるコールドストレスがエゾヤチネズミにおいても起きることを確かめ,密度依存性機構として働きうるかを検討することである. 実験用マウスによって確立された実験方法を野生エゾヤチネズミに適用できるよう,実験方法,実験環境などを検討した.HA法によって23℃の条件下で,抗原を注入してから6-8日後に抗体産生量がピークになることを明らかにし,野外での冬季の地表面温度を測定した結果からコールドストレスの低温条件として5℃が適切であることを明らかにした. この条件下でエゾヤチネズミの免疫能力に対する低温の効果について実験を行った.その結果,低温下のネズミの抗体価(免疫能力の指標)の平均値は1.6(n=12)であったのに対し,対照個体の抗体価の平均値は3.5(n=11)であり,低温下のネズミの免疫能力が有意に低いことが明らかになった.また,別の実験により,エゾヤチネズミは低温下では体温の維持などにより多くのエネルギーを必要としているために,免疫反応にエネルギーをさくことができず,免疫能力が低くなるものと示唆された. これらの結果から,エネルギーに余裕がない個体が免疫力が弱いために越冬しにくく,種内競争によってエネルギー条件が厳しいと想定される高密度個体群ではより多くの個体が死亡すると考えられるため,免疫力におけるコールドストレスは冬季の密度依存的な減少機構として働きうると考えられた.
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