Research Abstract |
大学附属農場の果樹園において人為的に植栽された果樹類9種,緑化植物7種,および野生植物26種の開花フェノロジーを調査した.1時間当たりの平均訪花数および平均訪花昆虫種数は,それぞれ,果樹類で28,10,緑化植物で23,5,野生植物で6,4となり,果樹類,緑化植物の方が野生植物よりも送粉者の利用度が高かった.この結果は,人為的に植栽される果樹類や緑化植物が,送粉者の重要な餌資源としてより多く利用されていることを示唆している. ただし,学習能力が高く選好性の高いコマルハナバチは,野生植物においても比較的高い頻度で訪花していた.この事実は,コマルハナバチを主要な送粉者とする在来植物の繁殖が,比較的大きなディスプレイサイズを有する人為的に植栽された植物による負の影響をあまり受けていないことを示唆している. 野生植物群集の開花フェノロジーは,7月頃に開花種数が減少する構造を示した.この時期に開花するキンカンやハナツクバネウツギ(アベリア)では,送粉者の利用度が高かった.したがって,野生の餌資源が減少する夏期に開花する園芸植物は,送粉者の代替資源としての役割が大きいと思われる. 自家和合性を示す‘寧波キンカン'の開花前の花蕾を袋掛けしたところ,結実率は36.8%と自然受粉の半分程度となった.一方,開花前に除雄してそのまま放置すると,結実率は68.9%と自然受粉区と同程度となった.この事実は,自家和合性キンカンの結実量の増大に対する送粉者の貢献度が比較的大きいことを示唆している.果樹類の結実を省力的かつ効果的に制御する上で,自然界の送粉者の存在は重要であると思われた.現在,他の果樹類について同様の調査を行っている. 自家不和合性を示すリンゴ‘ふじ'の除雄放置区における結実率は89.5%と,無処理区(86.7%)と人工他家交配区(85.7%)と同程度だった.一方,自家不和合性を示すニホンナシ‘幸水'の除雄放置区における結果率は59.3%となり,人工他家交配による結果率85.7%に比べて低くなった.これらの果樹におけるハチ目の単位時間当たりの訪花頻度は,それぞれ,‘ふじ'で20個体であったのに対し,‘幸水'では11個体であり,この差がナシ‘幸水'の除雄放置区における結果率を低下させた要因と考えられた.
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