Research Abstract |
キラル化合物を効率よく作り出す触媒的不斉合成の研究は,今日隆盛期を迎えているが,その大部分は金属と有機配位子を組み合わせた触媒を用いている.しかし医薬などの大量生産の際,金属によってはそのppmオーダーの残留度が問題となり,その規制は一段と強まる傾向にある.一方相間移動触媒によって代表される有機触媒は,一般に環境調和性,操作性,安全性が秀れており,21世紀型の触媒として期待が持たれる.しかしキラル相間移動触媒を用いる不斉合成は,長くあまり深く検討されてこなかった.この点に着目し,我々は10年以上前よりこの分野に参入し,種々の萌芽的成果を挙げて来た.近時かなりの研究者がこの分野に参入して来たが,我々も従来の研究の更なる発展を期して,新規キラル相間移動触媒の分子設計を行った.従来キラル源としてはキナ塩基がよく用いられているが,更に新規なキラル源として我々は将来の実用化を考慮して,安価で大量に入手可能な他のアルカロイド,テルペン類に着目した.まずニコチン,スパルテインを4級アンモニウム塩とし,それらの結晶構造をX線結晶解析で明らかにした.この両者は共に古くから知られたアルカロイドであるが,その4級塩の結晶構造が解明されたのは,この研究が最初である.しかしこれらの4級塩は,相間移動触媒としては必ずしも効率よい触媒とはいえないことが判明した.そこでキラル源としてカンファーに注目し,それらに由来する4級アンモニウム塩を種々合成し,グリシンイミンの不斉アルキル化を検討した.結果はまだ既存のキラル相間移動触媒に比較して効率よいものとはいえず,更なる検討を行っている.
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