2004 Fiscal Year Annual Research Report
糖代謝調節キナーゼのWntシグナル非依存的がん化作用の解明と大腸癌制御への応用
Project/Area Number |
16659354
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
源 利成 金沢大学, がん研究所, 教授 (50239323)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 豊 金沢大学, がん研究所, 助教授 (10179541)
川島 篤弘 金沢医療センター, 臨床研究部, 研究員 (20242563)
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Keywords | グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β) / 大腸癌 / Wnt / β-cateninがん化シグナル / 分子標的 / がん(化学)予防 / インスリン非依存性糖尿病 / アルツハイマー型認知症(痴呆症) |
Research Abstract |
蛋白質リン酸化酵素(キナーゼ)は細胞生命現象の維持に必須であり,リン酸化機構の異常は生理的代謝調節やシグナル伝達の破綻を来たし,癌をはじめとする様々な難治性疾患の発症に至る.とくに癌発生・進展の分子機構において,がん関連遺伝子変異やエピジェネティク変化とともに蛋白質リン酸化は翻訳後修飾として重要であり,発がんやがん病態との関連から重要視されている.グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)はβ-カテニン原癌遺伝子産物を含む一連の細胞調節蛋白質をリン酸化し不活性化する抑制因子として作用する多機能蛋白質リン酸化酵素である.すなわち,GSK3βはWnt/β-cateninがん化シグナルを負に制御すると考えられている.我々はこれまでに大腸癌におけるβ-カテニンの特異的活性化パターンが癌の悪性度や術後生存期間に密接に関連することを見出してきた.本研究において今年度は,β-カテニン活性化の制御機構を明らかにすることも含めて,このがん化シグナルの抑制因子として知られているGSK3βの発現・活性をβ-カテニンの活性化パターンに着目して解析した.ウエスタンブロット法によりGSK3βの発現とその第9セリン残基がリン酸化された不活性化型酵素(phospho-GSK3β^<Ser9>)のレベルを解析したところ,大部分の大腸癌組織や大腸癌細胞株において非癌部粘膜や非腫瘍性細胞(HEK293)に比べてGSK3βの発現が亢進し,一方,phospho-GSK3β^<Ser9>の発現はほとんど認められなかった.これらの変化はWnt/β-cateninがん化シグナル活性化とは無関係であった.注目すべき結果は,培養系において大腸癌細胞株の生存が低分子量タイプのGSK3β阻害剤(AR-A014418[Calbiochem社],SB-216763[Sigma-Aldrich社])の投与により用量依存的に抑制され,同様にGSK3βに対するRNA干渉によっても抑制されたことである.このようにGSK3βの発現や活性を転写調節的ならびに薬理学的に修飾することにより,本酵素の大腸癌におけるがん化作用を明らかにした.この成果は大腸発がん・進展の新規分子機構の存在を示唆するとともに,大腸癌の分子診断,治療や(化学)予防に新たな戦略を提示するものと期待される.また,本酵素活性化とインスリン非依存性糖尿病やアルツハイマー型認知症(痴呆症)の病態との関連から,本研究はがんの分子疫学的研究にもリンクする可能性を秘めている.
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