Research Abstract |
糖代謝調節酵素として発見されたGSK3βはWnt, NF-κB, Hedgehogなどの基幹的細胞調節シグナルの制御に関わる多機能セリン・スレオニンキナーゼであり,正常ではWntシグナルを抑制する一方,その遺伝子改変動物の解析からNF-κB細胞生存機構に必須であることが指摘されている.本研究では,細胞生存と増殖の制御破綻を本質とするがんにおけるGSK3βの機能を明らかにする目的で,大腸癌を対象にして本酵素の発現,活性と機能を解析した.癌細胞のGSK3β活性はリン酸化ペプチド特異抗体による免疫ブロッティングと,今年度に独自に開発した非放射性試験管内活性測定法により検出した.大腸癌細胞や切除癌組織におけるGSK3βの発現と活性はWntシグナルには関係なく亢進し,正常細胞とは異なり自身のSer9リン酸化による活性制御は破綻していた.癌細胞のGSK3β活性を低分子阻害剤(AR-A014418,SB-216763)により抑制すると,阻害剤の濃度依存的にアポトーシスが誘導され,増殖は阻止された.一方,対照細胞(HEK293)にはこれらの変化は観察されなかった.RNA干渉により本酵素発現を減弱させると,酵素活性阻害と同様に癌細胞の生存と増殖が抑制された.また,マウス移植大腸癌細胞の増殖は本酵素阻害剤の腹腔内投与により用量依存的に抑制された.このように,大腸癌におけるGSK3βの発現や活性制御の破綻が癌細胞の生存と増殖を推進するという新しい機能を発見した.そして,GSK3β阻害の制がん効果を細胞から個体レベルで検証することにより,本酵素が大腸癌の新しい治療標的であることを同定・実証した(特願2005-000133;国際出願PCT/JP2006/300160).GSK3βはインスリン非依存性糖尿病やアルツハイマー型認知症の創薬標的として世界的に注目され,多数の阻害剤が開発されてきている.本研究成果と従来の知見より,GSK3βは糖尿病,認知症と大腸癌に共通の創薬標的であり,これら主要な成人疾患発症の関連に新視点を賦与する重要な疾患マーカーであることが示された.
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