Research Abstract |
本研究のゴールは,これまで富山湾をモデルに行われてきたケーススタディーの研究成果を踏まえ,日本周辺及び近年スタートした極東域沿岸海底地下水系研究の結果と比較し,沿岸海底地下水機構の海洋環境への影響評価を行い,最終的に地球規模での議論・応用が可能な評価システムの構築を目的としている。今年度は具体的に,a)富山湾東部沿岸域における海底湧水の湧出と流動のメカニズムを明らかにする;b)富山湾海底湧水の流出量を正確に見積もり,それによる淡水・栄養塩の供給状況及び沿岸海洋への影響を把握する;c)人為起源物質を視野に入れ海底湧水が藻場を代表する海洋生態系に与える影響を評価する,の3点を目標として研究を行った。 まず,a)海底堆積物表層の温度と海底湧水湧出量に相関があることに着目し,堆積物温度から湧出量を求める方法を検討して,広域での海底湧水の湧出量(32m×32m四方の観測域における総湧出量は3.7×10^5L/day)及びその湧出量の分布や季節変化を明らかにした。次に,b)観測船を用いて夏季に海洋調査が行われ,富山湾の水塊構造モデルから,湾内浅層水へ流出される海底湧水は,最大で河川水の25%にも及ぶことが明らかになった。また,それによる溶存態リンの供給量は河川水の55%,溶存態窒素は1.3倍であり,その供給は水深180mまで及ぶことが分かった。更に,c)人為起源物質を視野に入れた海底湧水の沿岸生態系への影響評価を行うため,河川水・地下水・海底湧水及び海藻の窒素同位体比や,クロロフィルaと植物プランクトン計数を行った。その結果,夏季の成層化が進む時期において,沿岸亜表層海水中の栄養塩が枯渇している中,湧水域では海底湧水により絶えず栄養塩が供給され,海藻や植物プランクトンの増殖を促して,藻場の維持等沿岸の生物生産に貢献していることが明らかになった。その他に国内では利尻島において,初めて海底湧水による栄養塩の供給を明らかにし,国外では台湾周辺において初めて海底湧水の発見及び流量計測に成功した。これらの結果をまとめ,日本地球化学会の学会誌「地球化学」の特集号出版が予定されている。
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