Research Abstract |
本研究は,これまで富山湾をモデルに行われてきたケーススタディーの研究成果を踏まえ,日本周辺及び近年スタートした極東域における沿岸海底湧水系研究の結果と比較し,沿岸海底地下水機構の海洋環境への影響評価を行い,最終的に地球規模での議論・応用が可能な評価システムの構築を目的としている。今年度は具体的に, a)昨年度開発した堆積物温度から海底湧水湧出量を求める方法に基づき,広域連続堆積物温度測定計を開発し,その実地検討を行った。 b)昨年度実施された利尻島や台湾周辺での海底湧水調査に加え,大槌湾やむつ湾における海底湧水の探査を行い,海底湧水湧出量及び湧出メカニズムの地域的差異を明らかにした。各々湧出海域における地質条件及び湧出メカニズムによって,これまでに調査してきた沿岸湧水は以下の3種類:(1)扇状地型,(2)火山島型,及び(3)珊瑚礁型に分けられた。 c)陸棚面積が世界トップレベルの東シナ海において,沿岸海底湧水の探査に成功した。東シナ海は,アジア大陸から北太平洋へ流入する最大の河川-長江が注ぎ,水塊構造が大変複雑である。表層水塊(密度躍層以浅)には,外洋系表層水及び河川水(ほとんどが長江水);陸棚水塊(密度躍層以深)には台湾海峡からの流入水,外洋-陸棚間の交換水,黄海水,対馬海峡から日本海へ流出水及び海底湧水等,陸棚縁辺部より以深の水塊は黒潮水と北太平洋中層水からなっている。また,水深40-100mに広域的に低塩・低溶存酸素水塊の存在が分かっており,今年度は,海水の酸素同位体比,pH,栄養塩濃度,特に海水/間隙水の希土類元素組成等の化学トレーサーによって,この水塊は,長江の旧河口域付近から染み出した海底からの湧出水(陸起源地下水と海水の混合)と推測できた。 これらの結果を,日本地球化学学会の学会誌「地球化学」の特集号として,7編の報文及び1編の速報からなる「沿岸海底湧水の科学」を出版した。
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