2004 Fiscal Year Annual Research Report
突然変異・遺伝的不安定性を誘発する長寿命ラジカルの生成機構・生成箇所の解明
Project/Area Number |
16681005
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
熊谷 純 名古屋大学, 工学研究科, 助教授 (20303662)
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Keywords | 長寿命ラジカル / 突然変異 / 遺伝的不安定性 / 間接効果 / 水和電子 / 溶存酸素 / 哺乳動物細胞 / 放射線生物影響 |
Research Abstract |
突然変異・遺伝的不安定性誘発長寿命ラジカルの生成機構を明らかにするため、細胞懸濁液を窒素または酸素飽和させることにより、照射中の溶存酸素が生成する長寿命ラジカル種に影響を与えるかどうかを調べ、長寿命ラジカルの生成機構について検討した。窒素飽和したシリアンゴールデンハムスター胎児(SHE)細胞・リン酸緩衝生理食塩水懸濁液(1:1)を室温でγ線照射してESRを観測すると、突然変異誘発に関与しているスルフィニルラジカル(SLF:R-CH_2-S-O・)は殆ど生成しておらず、水素付加型フェニルアラニンラジカル(HPA:R-CH_2-C_6H_6・)が主に生成していることがわかった。一方、酸素飽和したSHE細胞懸濁液を照射すると、SLFがHPAと共に生成していることがわかった。細胞懸濁液を重水素で置換することにより検討した結果、1重水素置換したHPAラジカルが生成したことから、照射中に生成した水和電子がフェニル基に入ってアニオンとなり、そこにD+が付加してHPAが生成したことがわかった。一方、放射線照射中に生成した水和電子は溶存酸素があるとO_2-が生成し、O_2-がシステイン(R-CH_2-SH)と反応してSLFを生成していると結論された。また、水の放射線分解のもう一つの主生成物で非常に反応性の高いOHラジカルに関しては、N_2O飽和系において照射中に水和電子がN_2Oにスキャベンジされると同時にOHラジカルの生成量が増えるはずだが、HPAラジカル生成量は減少し、SLFは殆ど生成しなかった。従って、OHラジカルは、HPA, SLFラジカルの生成には関与していないと考えられる。以上より、HPA, SLFは、放射線照射中に生成した水和電子をその生成における共通の活性種とし、溶存酸素がなければHPAが、溶存酸素がある場合は水和電子と酸素により生成したO_2-を経由してSLFが生成していることがわかった。この結果、蛋白質中に生成する長寿命ラジカルは、放射線による直接効果ではなく、間接効果で生成していることをこの研究で明らかにした。
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