Research Abstract |
今年度の主な研究成果は,(i)聴皮質から神経活動を多点計測し,その活動を誘発した音刺激を再構成(翻訳)するアルゴリズムを構築したこと,(ii)ラットが音の捉え方を学習すると,聴皮質の情報表現も状況依存的にダイナミックに変化することを示したことである. 聴皮質の時空間的神経活動パターンを入力とし,それを誘発した音刺激の周波数の情報を教師情報としてニューラルネットワークを構築した.入力パターンの時間分解能を小さくした方が,判別正解率が向上したことから,聴皮質の音情報処理では,神経活動の空間的なパターンに加え,活動パターンの時間的な変化が重要な役割を担っていることを示唆する.また,神経活動情報としてスパイクの情報を用いると,全体の判別正解率はよいが,判別できる周波数にばらつきがあった.局所電場電位の情報を用いると,全体の判別正解率は下がるが,全ての周波数の刺激音を満遍なく判別する傾向があった.この結果は,局所電場電位が様々な神経細胞の活動を反映した情報であり,スパイクは特定の周波数に関する情報をより正確に表現することを示唆する. 状況依存的な物事の捉え方を学習させるために,雑音下でのみ,純音と同時に電気刺激が起こる条件付けを実施した.条件付け後,雑音下と無音下で聴皮質の神経活動の特徴を調べたところ,一次聴覚野では時間的に,腹聴覚野では空間的に情報表現が異なることがわかった.これらの結果は,一次聴覚野,腹聴覚野の情報表現が,状況に応じてそれぞれ,空間的,時間的に変化することを示唆する.また,聴覚野の各領野には,物事の捉え方において,異なる役割があることを示唆する.
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