Research Abstract |
ロボットが工場のような整備された環境ではなく,実社会や家庭内など未整備の空間や,宇宙など極限環境で作業を行なう場合に,視覚など外界センサが重要な役割を果たす。本年度は,多関節ロボットアームの視覚サーボ問題において,運動する物体に対して追従を行う問題を検討した。ロボットのジョイントサーボ系は通常1ミリ秒以下という非常に高速なサンプリング周期で制御されるのに対して,画像情報はビデオレートで検出されるため,その周期は33ミリ秒以上となり,高速な運動に対する追従が非常に困難となる。すなわち高速追従のためにフィードバック系を高周波域でハイゲイン化すると,閉ループ特性が大きく乱れ,安定性が損なわれる。そこで本研究では,オープンループオブザーバとメモリ列で目標物体の運動を推定・学習し,スイッチング機能をもつフィードフォワード(FF)制御器により高次の外乱をも強力に抑圧する制御系を提案した。この制御構造では,スイッチは推定が収束したときに一瞬オンとなるだけであるので、良好な閉ループ特性が保存されるという利点がある。 推定・学習アルゴリズムとFF制御器をスイッチング機構によって切り離すことにより,高次の外乱をも強力に抑圧する制御系が構成できる点が最大の特徴である。しかしながら,3次元運動の場合には,カメラから物体までの距離が変動するので画像情報から相対位置を求めるのに困難を生じ,これが等価的に制御対象の変動となることが問題となった。これに対しては適応機構を導入して,この環境依存の距離情報を同定する手法を開発した。さらに,目標物体の運動など環境の変化に対応するためのスイッチングアルゴリズムを開発した。これらの研究成果により,3次元空間内で位置と姿勢が変化する運動物体に対して,ロボットが安定に追従を行なうことが可能となった。さらに来年度は,この成果を用いて,運動物体の把持などより複雑な作業を行なうための研究を進める予定である。 上記の研究では,提案する制御系の検証のために多関節マニピュレータが必用不可欠であるため,研究向けの特別仕様の6軸ロボットを購入した。これはトルク制御モードでの動作も可能な6軸ロボットであるため,制御の研究には最適なものである。制御系設計の検証には,このロボットと同じモータを6個持つモータパネルを一式用意し,この装置で予備実験を行なってから,実際にロボットで動かすという形式にし,安全で効率的な実験を可能とした。また主に来年度に実行する予定である「スイッチングアクチュエータに対する体系的な制御系設計法の確立と電力変換器への応用」に関する実験の準備として,インバータの実験装置並びに制御装置を一部開発し,その基礎研究も行なった。
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